あの空の向こうへ

□あの空の向こうへ 5
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アサインが発表された。
よくわからないけれど、勇利は中国大会とロシア大会への出場の前に、国内の地方大会へ出場しなければならないらしい。
この間勇利のスケートを久し振りに見たが、私にでもわかるくらい勇利はエロスを究めていた。
(ユーリもアガペー究めてるだろうな。私にだってちゃんとわかるもん)

ヴィクトルが大会に出場していた時はその全てに同行した。ヴィクトルの邪魔にならないように、と言うと怒られるけど、ヴィクトルを支えられるように、と言うと傲慢な気がして自分のモチベーションが難しく、どの国に向かうのもヴィクトルの為に緊張していた。
(なんか、変な感じ)
今回、大会に臨む想いは当然ながら違った。ヴィクトルが出場する時は、彼が最大限の力を発揮できるようにまず私自身のモチベーションを整え、彼の身の回りの全てのメンテナンスに加えて、私自身の言葉遣いや仕草なども完璧にコントロールしていた。
今回はその緊張感がないのだ。当然だ、勇利にはヴィクトルがついている。(ヴィクトルにもヤコフがいたけどさ)
部屋で洗濯物をまとめる隣で、ヴィクトルは目を瞑りユーリが踊る曲を何度も聴いている。
「ねぇねぇヴィクトル」
「ん?」
ちょんちょんと肩をつつくと、彼はにこりと笑ってイヤホンを外した。
「私、観客として応援に行けばいいんだよね?」
「・・・は?」
「いや、なんだか不思議な感じがするなーって思ったんだけど、そりゃそうだよね、ヴィクトルの大会では一応関係者として傍にいたけど、ほら、今回、無関係者だし・・・あ、会場には必ず行くけど、後から向かえばいいんだよね」
「は?」
と2度目の疑問符を浮かべた後、ヴィクトルはわざとらしく大きなため息をついた。
「え?あの」
「俺、言ったよね・・・ちゃんと傍にいるように、って」
「あ、うん。でも、勇利の大会だから」
「勇利は選手として戦うの。俺はコーチとして戦うの。俺のサポートは誰がするんだい?」
コーチのサポートってなんだ。
「いや、でも・・・」
「でもじゃない。俺のモチベーションは誰が上げるのさ。ナマエだろ?」
両頬をムニムニとつままれる。
「・・・はい」
「ナマエは何の心配もしなくていいからね。荷物さえきちんとまとめといてくれたら、後は俺が手配しとくよ」
真剣に大会に挑む勇利の邪魔にならないか、申し訳ない気がしてならない。


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