あの空の向こうへ

□あの空の向こうへ 5
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ヴィクトルと日本で生活するようになって、私はゆーとぴあかつきでお手伝いをして、自給でお給料をもらっている。
ヴィクトルは「お金の心配なんかしなくてもいいから、ちゃんと俺の傍にいるように」と気遣ってくれたけれど、そうはいかない。他のお店でバイトする事も考えたけれど、ヴィクトルが許してくれなかった。

お客さんの応対をしてるうちに日本語も少しずつ覚えてきた。箸も持てるようになった。浴衣も着られるようになった。勇利のお母さんにお味噌汁やかつ丼の作り方も教えてもらった。



「ロシアに戻ったら、ユーラチカにもかつ丼作ってあげるからね」
『かつ丼は日本人が作るからうまいんだよ』
「遺伝子は日本人だから大丈夫!ヴィクトルも美味しいって言ってくれたよ」
『ヴィクトルはナマエの作ったもんならなんだって美味いって言うだろ』
「勇利も美味しいって言ってくれたもん」

週に一度はユーリと電話をする。電話するたび心配しながらかけるけど、元気そうで良かった。ヤコフの元奥さんにバレエレッスンから鍛えられてるらしい。

「もうすぐグランプリシーズンだね。ユーラチカの完成したアガペーが楽しみだよ」
『何滑ったってどんだけ上達したって何にもわかんねぇのによく言うぜ』
「ちょっとはわかるもん・・・」

転ばずに滑れる程度の私にわかるのは、ジャンプもスピンも難しい、という事だけ。
相変わらずスケートの事はよくわからない。

「ナマエ?ああ、ユーリと電話してるのか」
「あ、ヴィクトル。ユーラチカ、ヴィクトルに代わるよ」
『は?別にいいって』
「やぁユーリ、元気にしてる?ちゃんとご飯食べてる?」
『うっせぇな、母ちゃんみたいな心配ばっかりしてんじゃねぇよ』

みんなが笑顔で暮らしているなら、私はそれでいい。それ以上は何も望まない。



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