あの空の向こうへ

□おとぎ話
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15歳の頃、ヤコフの友人がたくさんの子供たちを連れてリンクに現われた。
身寄りのない孤児院の子ども達。
その中に、まるで東洋のお姫様のようなとても綺麗な子を見つけた。
俺が滑るのをじっと見つめている。
心臓が跳ねた。なんだろう、不思議な感覚だ。
あの子はどうして滑らないのだろう。滑れないのか?
俺が手をとったらどんな顔をするんだろう。話してみたい。どんな声をしてるんだろう。

彼女に近付きたい。



――――――――――――――――――――

「夢・・・?」
懐かしい夢を見た。
昨日の酒がまだ残っている。頭がぼんやりしている。
「飲みすぎたか・・・」
ベッドから降りて、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。頭を冷ますように一気飲みしてから、スマホを手に取った。
「夢じゃなかった」
ナマエの名前が入っている。
間違いなく俺は昨日、ナマエと連絡先を交換したんだ。
「・・・」
朝の8時だ。こんな時間に電話したら迷惑だろうか。
「いいや、大切なのはタイミングだ!」
誰に言うでもなく呟いて、思い切ってナマエに電話をかけた。
俺はいい歳して女の子に電話一本、何をこんなに戸惑っているんだろう。
『は、はい』
「あ、おはよう。・・・ナマエちゃん?」
『はい。おはようございます』
いざ声を聞くと何を話していいかわからなくなる。
「えっと、今日の7時。あいてないかな」
昨日の今日でデートを申し込むなんて俺はどれだけ焦っているのかと、余裕のない自分に苦笑する。
「食事でもどうかな」
『・・・今日、ですか?』
突然の誘いだ。都合が悪くても仕方ない。今日がだめなら明日はどうだ。
それも無理なら、きっと迷惑だという意思表示なのだろう。二度と連絡しない事にしよう。
『はい、喜んで』
「!」
嬉しそうなその声に、一人でガッツポーズをした。
「じゃあ、そうだな、場所は、えっと・・・」
舞い上がってしどろもどろになってばかりだ。全然スマートじゃない。かっこ悪いな。
(調子が狂う)
何度も自分自身に苦笑いした。


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