あの空の向こうへ

□あの空の向こうへ 10
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荷造りはとっくに終わった。
向こうでの買い物リストも作成した。
「ナマエ、やけに張り切ってるね」
と、ヴィクトルが笑っている。
「べ、別に張り切ってなんか」
「よっぽど故郷が恋しかったんだね」
「そ、そんなじゃないよ。私は勇利のコーチのヴィクトルに、ただくっついてくだけだもん」
「ま、どんな理由でも、君が楽しそうだと俺も嬉しいよ」

勇利は中国大会で、クリスを抑え、ピチット君に次いで2位。
明日、私達はロシア大会の為にモスクワに発つ。

「マッカチン、せっかく帰るのに一緒に行けないの残念だね。お利口にしててね〜」
と頭をわしゃわしゃと撫でると、マッカチンはくーんと鳴いた。





ホテルに到着し部屋に入ると、ワクワクしていた気持ちの反動か、ふっと疲れが襲ってきた。
ヴィクトルは勇利と一緒にいる。
窓から1人モスクワの街を眺めていると、ヴィクトルを追って日本に行ってからの日々が頭の中を駆け巡った。
ぽすん、とベットに横になる。
「ヴィクトルと一緒だと色々大変だけど、それでも傍にいられて幸せだなー…」
ヴィクトルが日本人のコーチになると日本に向かい、1人ロシアに取り残され…もし彼を追わなかったら私は今頃どうしていただろう。
彼に出会う前と同じように、バイトをしながらのんびり暮らしていたのだろうけど。
(幸せって、忙しいんだな…)
1人で穏やかに過ごす日常に不満なんてなかった。それこそが私の幸せとも思っていた。
そこに現れたヴィクトルは真っ直ぐに私だけを求めて、私の毎日に輝きを与えてくれた。私が望む愛情を溢れるほど与えてくれる。
一見、流れるままに穏やかに過ごしている私は、いつだって優しく笑っているヴィクトルの隣で忙しくときめき続けているのだ。



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