あの空の向こうへ

□空の色
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レストランでの夕食を終えてもまだ、ナマエの表情は暗かった。正確に言うと、必死で笑顔を作り保とうと頑張っている。
(落ち込んで暗い顔されるより、作り笑いの方がきついな)
ナマエの手を握り歩き出すと、ナマエは強く握り返してきた。
「…ナマエ」
「ん?」
「今度、ナマエの部屋でゆっくり映画でも見ようよ」
話を逸らそうと話題を振ると、ナマエの思考はうまく逸れてくれたようで。
「だ、だめだよ…」
しかしそれは期待外れの答えだったりもした。
(逸れてくれれば、まぁいいんだけど)
ナマエの部屋は、壁の全てが俺のポスターで埋め尽くされている。
「本物の俺を部屋に入れないって、どうかと思うね」
過去に一度だけ、熱を出したナマエの見舞いで部屋に入った際にその圧巻な室内を見て良い意味で衝撃を受けたのだけど…ナマエにとって本人に見られた事は余程不本意だったのだろう。それ以来二度と部屋に入れてはくれない。
「べ、別にポスターのせいでヴィクトルを部屋に入れないわけじゃ…」
「大体、俺が傍にいるんだから、もうポスターなんか外したら?」
「それはダメ。私にとって2人は別人なの。えっと、ヴィクトルはヴィクトルなんだけど」
「そうだよ、俺は俺だ。あーあ、偽物はナマエの全てを見てるのに」
「どっちも本物だよ」
「別人なのに?」
「別人だけどどっちも本物!あれ、なんかおかしいかな…」
ナマエはブツブツと考えながら自分の言葉に笑った。
よし今だ、と俺はこの和やかなチャンスに心を決めた。
「ナマエ、この後だけどさ…」
「あ、私、明日鮮魚コーナー担当だから朝早くて。帰らなくちゃ」
「あ…そっか」
「レジ担当だったらゆっくり出来たんだけど。ごめんなさい」
「構わないよ。俺とナマエには時間がたっぷりあるからね」
と言いつつ、やはり断わられるのはショックだったりする。
「ヴィクトル、今日も楽しい時間をありがとう」
「こちらこそ。おやすみ」
とナマエを抱き締めて髪にキスをし、また今日もナマエの背中を見送った。

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