怠惰の魔王は異世界で青春を謳歌する

□第9話 古代遺跡と彼方の記憶
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主にミコニウス卿に質問攻めにされ、ここであったことを大体ありのままに語ったのだが(無論、『向こう側』については別だが)、問題はその後だった。
「ふむ…ここまで精密なゴーレム…それに人工生命とはな。古代文明の技術はすさまじいな」
興味津々、という目でアーサーとティナを見る卿。
「…警戒対象と認定」
「…アーサー、彼はこの施設を研究したいみたいだけど、いいかな?」
「ええ。もうここはその役目を終えていますから」
流石に彼らの時代の文明が滅んだと聞いた時は驚いたアーサーだったが、それ以降は至極平静である。
「…というわけなのでミコニウス卿」
「何だね?」
「施設はご自由にお調べください。ですが、この二人を研究材料にするのはやめていただけませんか」
「………」
どういうつもりだ、という目でこちらを見る彼へ、施設のシステムを立ち上げ、その中の一つの記録を見せる。
それはおそらく、ここを作ったであろう者の手記。
興味本位から命を作ったこと。そうして生まれた『娘』に次第に愛着が沸いたこと。
彼女を守るための『騎士』を作ったこと。そうしている間に自身の命が尽きていったこと―――
『この記録を見ているのが誰かは知らないが、どうか、娘を幸せにしてやってくれ…』
そう結ばれた手記を読み終えるまで、誰もが無言だった。
「…卑怯だな。こんなものを見せられては、研究したいなどとは言えないではないか」
「卑怯上等ですよ、それでこの子たちが自由になるなら」
「…だが、どうするつもりかね?彼らを。君が面倒を見るのか?」
「必然、そうなりそうですねぇ」
「質問。なぜ?」
ティナがぽつりと問う。
「なぜって?」
「貴女に私たちの面倒を見る理由がない」
「そりゃ、途中で放り出したら目覚めが悪いからに決まってるじゃない」
一回関わったからには最後まで責任持つさ、とケロリと言う。
「―――不合理。不可解」
「それで結構。こちとら自分の心に従って生きるって決めてるんでね」
「それより、ここまで増えると学園の寮じゃ足りないんじゃないか?」
サブリスの懸念はもっともだ。
「そうだねぇ。…誰か、王都で家買えるとこ知らない?」
「え、まさか家買う気か⁉」
この返答は予想外だったらしく、全員が騒めく。
「えーと。王都でこの人数住める家ってどのくらいするの、ウィル?」
「購入であれば、金貨が50枚もあれば足りるかと」

因みに、この国の貨幣は銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種があり、それぞれ100枚で一つ上の貨幣と同価値となる。
で、銅貨1枚が日本円で大体100円相当、といったところだ。
「流石王都、たっかいなぁ」
「…出せるのかね?」
卿が心配そうに見てくる。
「そりゃもちろん」
実のところ、私の全財産は白金貨30枚は下らないので。
いやぁ、地味すぎてやり手がいなくて高報酬になってた採集依頼をチマチマやってきた甲斐があったってもんだ(まあ財産のほとんどがウルフ撃退の報酬なんだけど)。
「でも、管理する人手は?」
「それは私がしますよ」
とアーサー。
「…解決って感じだね。じゃあ、さっさと物件探さないとな」
「よかったら、僕が見繕おうか?」
「助かるよ、ウィル。できれば学院からそう遠くない場所でよろしく」
「ああ、わかった」
「…感謝。グレイ」
ティナがほとんど聞こえなさそうな声でそう言った。
「―――では、主共々お世話になります、グレイ様」
「こちらこそ家のことは頼むぞ、執事アーサー」
そんな風に言ってやると、彼の表情が華やいだ。
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