怠惰の魔王は異世界で青春を謳歌する

□第9話 古代遺跡と彼方の記憶
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『使用者、アーサーの魔力回路を認識。竜核接続。これより、修復を開始します』
アーサーが剣に触れた瞬間。剣がそんな音声を流した。
剣から柔らかい光が放たれ、見る見るうちにボロボロだった彼の体が治っていく。
「―――これは」
「やっぱりかー。よかったよかった」
「…どういう仕組みなんだ…?」
唖然としたウィルの声。
「私だって細かい仕組みはわからんさ。ただ、伝説ではそうだった」
もし、と続けながら金庫からもう一つ出てきた本を拾う。
その題は、『アーサー王伝説』
「ここの主が拘り抜くなら、当然その機能も再現してるだろう、って思っただけ」
「―――感謝します、マスター」
さっきまでの弱りようはどこへやら、しゃんと姿勢を正して礼を述べるアーサー。
「…違うでしょ、アーサー」
「はい?」
「…君のマスターは彼女でしょ?」
くいっとすっかり忘れられていた培養槽を指さす。
「…その通りですね。ええと…」
「私はグレイ。こっちは恋人のウィル」
「ではグレイ様。彼女に名前をつけてくださいませ」
「―――いや、何で君にアーサーって名前があるのにこの子にはないんだ?」
「…多分、彼は『聖剣の使い手』であるために『アーサー』である必要があるからじゃないか?」
「…なんじゃそりゃ」
設定に忠実に作りすぎだろう、と思ったがよく考えたら今の自分も大概なので自粛する。
それより名前だ、名前。
…ホムンクルス。クルス。
「…クルスティナ。でどうかな?」
『個体名、クルスティナを確認。自己と認識。意識覚醒』
いきなり培養槽の中の少女がしゃべりだした。
「うわっ聞いてるんならそう言ってよ」
『それより出してくれませんか、マスター』
「…ああ、ごめんね、ティナ」
培養槽の操作盤と思しきものに触れると、ぷしゅー、と中の液体が抜ける。
そしてそのまま隔てていたガラス(なのだろうか?)が消え、少女の体がこちらに倒れこむ。
「…大丈夫なの?」
「…身体機能、一部不足。試算結果、直立不能」
「とりあえずこれを着せてあげて。あとは君が運べばいいんじゃないかな」
上着(この暑い中よく着れてたな)をこっちに差し出しつつアーサーにそういうウィル。
「そうですね」
同意したアーサーがこちらに歩み寄り、ティナを抱え上げた。
「んじゃ、報告に戻…」
「る必要はなさそうだね」
入り口の扉に、みんなの顔が見えた。
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