怠惰の魔王は異世界で青春を謳歌する

□第9話 古代遺跡と彼方の記憶
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「―――さて」
出動する自動機械たちの隙間を縫い、正確な道案内の甲斐もあって、中枢と思しき部屋まで来たのだが。
「…この扉、どう開ければ…」
「どうも自動ドアっぽいんだけどねぇ」
ウィルと二人なので遠慮なく向こうの言葉を使いつつ、そっとドアに触れる。
『魔力認証。試練突破確認。防衛システムを停止します』
「おわっ」
急に機械音声でそう述べられ、少し後ずさる。
「…試練?」
「多分、あの自動機械の群れを突破してここまで来るのが試練なんだろうさ」
実際のところ、機動力にモノを言わせてシステムの反応より早く駆け抜けただけなんだが。
てか並みのやり方じゃ前進どころか撤退すらままならない量だったしなアレ。
そんなことを考えていると扉が開いた。
その中では、きっちり90度のお辞儀をした少年が立っていた。
「―――お待ちしておりました。My Master」
彼はそう、少し掠れた声で言った。
年は12、3といったところか。…って、ちょっと待て。
「何でこんなところに少年が?」
「多分、彼も魔法の産物なんだろうさ。違う?」
「その通りです、マスター。私はある方をお守りするために作られたゴーレムです」
「ここに来るまでに迎撃してきたのとは違うのか?」
「彼らはここに来る者を試すための兵です。そして私は、ここに辿り着いた者を試すための―――」
そこまで言った体がぐらりと揺れた。
慌てて抱き留める。
「ちょっと―――って、ボロボロじゃない、アンタ」
「…数万年、待ち続けていたのです。活動限界はとうに過ぎました」
「…その割には意外と元気そうだけどね」
何だか後ろから苛立ちを含んだ声が降ってきた。
「嫉妬してんじゃないよ、全く…で、『あの方』ってのは?」
「この、奥に…」
既に話すのも難しいのかもしれない。
抱え上げてウィルに「奥に行こう」と促す。
…不機嫌な表情を隠そうともしていない。大人げないのは私あんまり好きじゃないんだけど。
はぁ、とため息を吐いてさっさと歩き出す。
少し遅れて、足音がついてきた。

「…これが、『あの方』?」
「Yes」
「…これは、何だ?」
そこにいた…というか、あったのは。
大きな培養槽(SFとかでありがちな円柱形の)と、その中で眠る少女の姿。
多分身体年齢5、6ってとこだろう。
眠っているように目は閉じており、四肢もだらりとしている。
「グレイ、何だかわかる?」
「多分、所謂『ホムンクルス』ってやつじゃないかな」
「…ご存じでしたか」
ゴーレム少年が語るに曰く。
彼の主人はとある転移魔術を使い、遥か遠くの場所で人の手で生命を作った人物がいる、という噂を聞いたのだとか。
それで研究のために生み出したこの子に次第に愛着が沸き、彼女を守るために彼を生み出した。
「その際、私に名を与えてくれました。その名は『Arthur』。彼の地における伝説の王の名前だそうで…」
「…ちょい待ち。その『彼の地』の名前、知らない?」
いきなり話を遮った私にウィルが顔を向ける。
…まぁ私、基本人の話は最後まで聞くスタンスなんで。
「…確か、『Briten』と聞きましたが」
「あー…なるほど」
「グレイ?どうかしたのか?」
「…ここを作った主は、『向こう側の世界』を知ってる」
結論を言うと、ウィルは驚いてのけぞった。
「え、本当か⁉」
「うん。ブリテンっていう地名も、アーサー王の伝説も、全部『向こう側』の物だ」
そんなことを話していると、腕の中の彼が急に重くなった。
「…機能停止までもう、時間がありません…どうか、この方をお願いします…」
「―――なるほどね。伝説に忠実だよ、アンタの主人は」
部屋を見渡して、一つ、金庫を見つけた。
それに歩み寄る。
「これは…なんて書いてあるんだ?」
「それは…確か、『伝説の剣』が入ってると、主は仰っていました」
「うん。全部書いてある」
ただし英語で。
『この中には、彼の地の伝説の剣がある』
『これはアーサーのための剣だ』
『知るならば答えよ』
『その剣の名は?』
「―――しっかし、何でこの中身、アンタに渡さなかったんだろうね?」
「主は、私を作ってすぐに亡くなってしまったので…」
「…つまり、彼女、この中身、君、って順に作ったのかそいつ…」
そんなことを言いながらキーボードに目を向ける。
「『e』『x』『c』『a』『l』『i』『b』『u』『r』…っと」
がちゃん、と鍵の開く音。
中にあったのは、岩に突き刺さった聖剣。
―――選定の剣とエクスカリバーって別物じゃなかったっけ?まぁ色々混ざってるのか。
「さ。抜きな、アーサー」
「…はい」
今にも崩れそうな手を伸ばすアーサー。
「グレイ…でも、もう遅いんじゃ」
「…私は、彼の主を信じるよ。もし。もし、あの聖剣が伝説に忠実に作られているのだとしたら―――」
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