怠惰の魔王は異世界で青春を謳歌する

□第9話 古代遺跡と彼方の記憶
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「…卿が私を呼んでる?」
「はい。今回の遺跡調査に、Aクラス冒険者である貴方の力を借りたい、と」
「承知しました、案内してください」
ウィルが少し心配そうな目で見てくる。
大丈夫、と手を振って執事長について行く。
仕事とアレは別問題だろう。

そんなことを思ってた時期が私にもありました。
依頼の日程と報酬、その他諸々を取り決めた後、退出しようとしたら呼び止められた。
そして宣って曰く、
「君、ウチのティエリはどうかね?」
「…失礼、『どうかね』とは?」
「無論、男としてどうか、と聞いているのだが」
「素直に申し上げるとあまり興味はありませんね。おそらく彼もそうでしょう」
基本的にティエリは自分から話しかけるということをしない。さりとて引っ込み思案というわけでもない。
必要ないから話さない、というスタンスのように思える。話題を振れば答えるが。
「そうか。それは残念だ」
「…何か仰りたいことがあるなら率直にお願いします。含んだ言い方は苦手なもので」
「なら率直に。…ウィリアムといったか、彼はやめておきなさい」
「…それは彼が知の尊爵家の人間だからですか?」
「ああ。君には言えないが、彼らは…」
「…『汚れている』と仰りたいので?」
さらりとそう言うと驚愕の目を向けられた。
…それはそうか。当然だ。
「実は先日、詳細は省きますが彼らの裏の顔をしてしまいまして。宰相様に殺されかけましたよ」
ケロリと言ってやると、更に驚愕が広がった。
「…君は、なんとも思わないのかね?」
「別に何も?」
「君を殺しかけた男の、息子に対しても?」
「ええ。陛下の立ち合いもあって和解しましたし、そも知ったきっかけは彼に助けられたことなので」
何だか段々表情が呆れに近くなっているような気がする。
「君は…寛容なのだな」
「ええ。お話は以上で?」
「ああ、うむ。明日よりの調査、よろしく頼むぞ」
「もちろんです。では」
退出してからため息が出た。
何でそんなに気にするかね?全く…

一方、部屋に残った卿はというと。
「アレを知の尊爵に渡すのは少し惜しいな…だが、この国に留められただけましと思うべきか」
魔の尊爵たる彼は、魔力の感知に優れており、人間離れした魔力量を持つグレイに興味を持ったのであった。
できれば我が家に取り込みたかったが…と漏らす。
だが。あそこまで言ってなお平然と自らの愛を貫く決意は見事なものだった。
その裏の顔の性質上、跡取り問題が頻発する(取り合うのではなくそもそもいない、という意味で)知の尊爵だが、今代は良い相手に恵まれた、と彼は考えていた。
…愛云々に関しては彼の勘違いなのだが。
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