怠惰の魔王は異世界で青春を謳歌する

□第9話 古代遺跡と彼方の記憶
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それからしばらく。
夏休みも中盤を過ぎ、課題も終わった頃(グレイ曰く、「実はこんなに順調に課題終わったのって人生初」とのこと)。
「…でさ。お前、あいつと何か進展あったのか?」
サブリスがそう問うてきて首を横に振る。
「…マジで?」
「うん。特に何も…」
「…付き合ってから、何も?キスとかデートも何もなく?」
「そうだけど」
「………」
絶句したサブリスの代わりに、ティエリがぼそりと
「それ、付き合ってないのと同じなのでは…?」
と指摘した。
…確かに。
「でも、別に僕は…」
「気にしてないとでも?」
「うん。一緒にいられたら、それで」
二人が顔を見合わせ、ため息を吐いた。
「…グレイはどうなんだ、それ」
「どうなんだろ?」
俺が知るか、と吐き捨ててベッドに転がるサブリス。
「…からかい甲斐のねぇ」
「…?」

一方その頃。
女子部屋でも同じような状況であった。
「…それで満足なんですか?」
「まぁ私はどっちでもいいし、あいつは多分そういうことより本読んでるほうが好きだろうし」
「これがホントに付き合ってる男女なのか…」
トゥリアの戸惑いの声に「まぁ一般からかなりかけ離れてるのは認める」と返す。
水着姿見て告白してきた割にあいつは結構プラトニックな愛を抱いている、と思う。
そうじゃなきゃタダのロリコンだ。
「ま、そういうのを望むなら向こうから言ってくるさ」
「…そうでしょうかね」
「…確かに言えなさそうだなぁ」
そこらへんは私が忖度してやらにゃいかんかもしれん。
とはいえ今はこれでお互い満足している。
「焦るこたぁなかろうよ、私これでもまだ12だぜ?」
「「あ」」
「…二人して忘れよってからに」
呆れてため息を吐いた。

そんな会話をしていた数日後。
「ミコニウス卿がここに?」
「その通りです、殿下」
何でも、ティエリの父親がここに来るのだそう。
「近隣の魔石鉱山で遺跡を掘り当てたそうで、その調査のために、と」
「…ウィル、魔石鉱山って?」
曰く。この国では魔道具の生産が盛んで(その技術は大陸随一なのだとか)、その動力源である魔石の生産も盛んなのだとか。
「で、その鉱山を掘ってたら古代遺跡を掘り当てたのか…遺跡って埋まってるもんなの?」
「多くは。天変地異があったと伝えられてる」
「坊ちゃま、当主様がいらっしゃいました」
「わかりました、執事長」
では、と振り返るティエリ。
「…別荘借りてる身だし、挨拶に行かないとな」
「そうですね、お礼を言わないと」
サブリスとミシェルが率先して玄関に向かう。
ウィルはというと、躊躇いがあるように見える。
「…腹括りなよ、会わないわけにはいかないでしょ」
「うん…」
不安そうな顔の彼の手を握る。
「大丈夫、私が傍にいるさ。…さ、行こう」
そのまま手を引いて歩き出すと、抵抗なくついてくるようだった。
…そして玄関に着いた時、なぜか感動した目で全員がこちらを見ていた。
サブリスが何か言いたげに口を開いたが、直後に扉が開いた。
「父上、お久しぶりです」
「ティエリか、元気そうだな」
「ミコニウス卿、この度は別荘をお貸しいただき、感謝しております」
「殿下も健勝そうで何よりでございます」
そうやって一人一人と言葉を交わした後、最後に私たちの方に歩み寄ってくる。
私の手を握る力が強くなる。元気づけるように握り返す。
「あなたが、王都をウルフの群れから守ったというグレイ殿ですかな?」
「私はただ、友を守っただけですよ、卿。お初にお目にかかります」
「おやおや、礼儀正しい方だ。騎士団長が褒めるのも頷ける。…しかし」
そこで声を細め、しかしウィルには聞こえるように囁く。
(悪いことは言いませんから、知の尊爵とはあまり関わらぬ方が)
「…お心遣い感謝します。が、既に後戻りできぬ程度には関わっておりますので」
大人げねぇなこいつ。そんなことを思いながら言葉を選んで返す。
にっこりと笑顔をつけると渋々、といった感じで彼は退いた。
そしてウィルとも当たり障りない言葉を交わし、屋敷の奥へと入っていく。
「…ありがとう」
「礼はいらないよ。恋人同士なんだから」
ったく、大人げない。
吐き捨てると、彼はようやく笑顔を浮かべた。
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