怠惰の魔王は異世界で青春を謳歌する

□第9話 古代遺跡と彼方の記憶
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くっついたの何だのという騒動から数日後。
「いやぁ、この街も結構デカいんだね」
「国内随一のリゾート地ですし、貴族の別荘もかなりの数がここにあるんですよ」
「私たちが泊まってるのもティエリさんの家の別荘ですからね」
夏休みの課題の息抜き、というわけで街にくり出したのだが。
(身なりいいわきょろきょろしてるわ、あからさまに『お貴族様の子息』なんだよなぁ)
警戒は最大限にしないと、と気を引き締めた時。
「あ」
ウィルがそう呟いて足を止める。
全員が振り向いて注目する、その建物はーーー
「…冒険者ギルドがどうしたの?」
「グレイはいつもこの場所で依頼を受けてるんだろ?」
「いやこの街のギルドは利用したことないんだけど」
「そうじゃなくて、お前の仕事場に興味あるんだろ」
サブリスがさらりとフォローする。
「…言っとくけど入る気ないからね?冷やかしは失礼だよ」
「それは…そうか」
しょんぼりするウィルに「…興味あるなら休日に依頼、一緒に行く?」と提案するとぱっと表情が輝いた。
つくづくわかりやすいな、ちゃんとスパイとかできんのかこいつ。と心配しつつ踵を返す。
後ろでついてくる気配を感じながら「行きたいとこってどこかある?」と問うと「あ、それなら」とミシェルが声を上げた。

「…ええと、服屋に行きたいって話だったよね?」
「ええ、はい」
「…案内、ちゃんとしたよね?」
「ああ、初日にちょっと歩いただけでよく覚えてるよな」
「それはどうも。…それで、何で二人は私の両脇を抱えて店に引きずり込もうとしてるのかな?」
そう。どういうわけかこの二人が私を離してくれないのである。
「…グレイさん、私服も下着もロクに持ってないじゃないですか」
「いい機会だ、見繕ってやるよ」
「絶対、ぜぇぇっったい水着の時みたく着せ替え人形にするつもりだよね⁉」
「素直に諦めろ、グレイ。ミシェルはセンスあるぞ、服」
「いやいやいや!そういう問題じゃないから!ウィル、助けてぇ!」
本気で助けを求めるものの。
「…………ごめん」
ウィルがきっぱりと拒絶した。
「ウィリアムさん、ナイス判断です」
「見てろよ?可愛いの選んでやるから」
…これが目的かコイツ!
「恨むからなぁぁ!」
そう叫びながらずりずりと店へ引きずり込まれていった。

「ウィリアム、お前意外と容赦ないな」
「………グレイ、ホントごめん」
…正直、着飾った彼女を見たいという欲に勝てなかった。本当に申し訳ないと思う。
せめて報復はきっちり受けよう。死なない程度に。
そう決意を固めつつ待つこと数時間。
…数時間。ここまでかかるとは思わなかった。
どっさりと袋を抱えて彼女たちが出てきたころには、日がかなり傾いていた。
「すごい量だな…」
「だってサイズ合えば大抵似合うんですもん、仕方ないんですよ」
「…で?本人は?」
「例によって恥ずかしがって出てきてないぞ」
トゥリアがくいっと店を指さした。
「いや、だってさぁ」
「つべこべ言わずに」「さっさと出てこい」
渋々と出てくるグレイ。
「…どう?」
ーーー活発なイメージに合う、肩を出したトップス。
そして足をむき出しにする(それはまぁいつもの事だけれど)ミニスカート。
「…いい。すごく」
「おい、語彙力どこ行った。…まぁ褒めてくれてるのはわかるけどさ」
ありがと、とにこりと笑うグレイ。
しかし直後、
「でもそれとこれとは話が別でね」
つかつかと歩み寄ってくる。
そして眼前で拳を握るや、
「見捨てやがってコンチクショウ!」
そう怒鳴りながら腹に叩きつけられた。
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