怠惰の魔王は異世界で青春を謳歌する

□第8話 夏休みはバカンスへ
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異世界から来た、それはまだいい、予測済みだ。
数万年前、古代文明を滅ぼした『七罪魔王』の称号に魅入られた、これもまぁ、桁違いな強さを考えるとまだまぁいい、としておける。
問題は。
「…えっと、世界を渡って体を失う前は男だった…しかも僕より年上の?」
「18歳の男でしたとも。まぁショック受けるのも無理ないよね」
…まぁ彼女に惹かれたのは別に性別が云々、という要素はあんまりないので別にいいかと思う。
それよりも。
「…君的には男同士ってことになるけど、嫌じゃないのか?」
「その言葉、そっくり返すけど?」
「いや、別に…元が男だとしても今の君は女の子なわけだし」
「体が女ならいいわけ?…いや、冗談だよ。ま、私としては別段性別に未練はないからね。向こうでそういう経験は皆無だし」
「え、どうして?」
驚いて聞くといやさ、とほほを掻きながら彼女は笑う。
「こっちの世界には学校ってたくさんあってね、それで私が通ってた学校って男しかいなかったんだよね」
まぁ仮に男女共学だったとしてそういうイベントがあったかは定かじゃないけど、と苦笑する。
「そんな過去はさておき。…最後の確認になるけど、ホントに私なんかでいいのね?」
「ああ、もちろん」
「…うん、それじゃあ、改めてよろしくね」
そう言って右手を差し出すグレイ。
その笑顔のほほに涙が伝う。
「…なんで泣いてるんだ?」
「うれし泣き、なのかな。こんな私でも、認められていいんだな、って…」
終いには嗚咽交じりになりながら、慌てるように涙を拭う。
そんな彼女をそっと抱きしめた。
「…ありがと、ちょっと…甘えさせて」
しばらく、彼女の嗚咽の音だけが響いた。
「…もう、大丈夫?」
「ああ、うん。ありがとね」
そう答えてこちらを見る彼女にもう涙はなく。
にかっと満面の笑みを浮かべると、背伸びをして僕のほほにキスをした。
「それじゃ、私は部屋に戻るから!また明日!」
「…ああ、また明日」
跳ねるような軽やかな足取りで駆けていく彼女を見送り、一息つく。
キスをされたほほに触って、今更ながら恥ずかしさが込み上げてきた。
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