怠惰の魔王は異世界で青春を謳歌する

□第3話 王都とAと武闘大会
7ページ/10ページ

「…そなたの剣を貸すのは、少しあの少年には荷が重かったのではないか」
観客席。眼下では今まさに両者が激突したところ。
鎧を着た男に高級そうなマントに身を包んだ男が話しかける。
「確かにそうかもしれませんね」
「何より傑作だったのはあの少女じゃな」
「…言わないでください」
剣を渡したとき、あの少女は…
『ありがとう、おっちゃん!』
三十路に入りたての男の心臓を容赦なくえぐっていったのだ。
「決着がついたようじゃな」
少し感傷に浸っていた男をその言葉が現実に引き戻す。
お互いに最高の一撃を見舞ったのだろう。
駆け抜けた後、両者が残心をとっている。
先に動いたのはーー―
「おや」
少年の方だった。
膝をついて剣を取り落とし、腋を押さえて咳をしている。
「あれはいいのをもらったようですね」
「そのようじゃな。あの少女も無傷ではないが」
遠目ではよくわからないが、少女もほほに傷を受け、髪も少し焦げているようだ。
少し苦い顔で髪をいじった後、少年に歩み寄って助け起こす。
ここでようやく、審判がはっとして「しょ、勝者、グレイ!」と声を張り上げた。
観客が歓声を上げる。
「今年は逸材が二人も来るとは」
「うむ。ジュニア部門ではそうそう見れん戦いじゃった」
そう会話しているうちに、少年が彼らのもとに歩み寄ってくる。
行け、という目配せを受けて鎧を着た男は観客席から飛び降りた。
そして剣を差し出す少年に問う。
「そなたは、この剣に恥じぬ戦いができたか?」
「はい。僕は全力を出し切りました」
吹っ切れた目で少年は堂々と答えた。
そうか、と答えて観客席に戻る。
「…どうだ?」
「…今年は彼も学費免除にしましょう。勘当されてあの才能が潰されるのは遺憾です」
「そうじゃな。いやはや、いいものを見た」
そう言って男は満足げに笑った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ