怠惰の魔王は異世界で青春を謳歌する

□第3話 王都とAと武闘大会
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「どなたか、剣をお貸しいただけないでしょうか?」
試合相手の少女が観客席に向けて声を張り上げる。
はっとして少女を見ると、彼女は振り返って肩をすくめた。
「余計なお世話かもしれないけどさ。あなた、このままじゃダメだと思うから」
「…君に何がわかる」
思わず、そんな言葉が漏れ出た。
僕は、ただ、少しでもーーー
「わからないともさ」
少女は僕の呪詛のような言葉をあっさりと肯定した。
「私はあんな才能しか見ない毒親も、それに乗っかって兄を蔑ろにするバカな弟も持っちゃいないからね」
あの人たちは、振り向かないよ。君がどんなに努力しようとも。
ーーー振り向いてもらいたかった。
そんな僕の心の声を聴いたかのごとく、少女は断言した。
観客席の両親を見る。
その表情は軽蔑をありありと示していた。
ーーー『魔法貴族』としてのプライドの高い両親のもとに生まれたものの、生来の魔力量に恵まれなかった僕は、それでも何とか振り向いてもらえるよう努力を重ねた。
少ない魔力で威力が出るよう魔法を改良し、書で読んだ『魔法剣』という技能も身に着けた。
でも、あなた達はーー―
『魔法貴族たる我らの嫡男が剣を使うとは何事か!』
『やっぱりこの子の方がふさわしいですわ貴方』
『こんな奴が兄ということだけが僕の不幸ですよ』
ーーーそう。この少女は正しい。僕はそこから目を背けていただけだった。
感謝の気持ちを抱きながら彼女の方を見ると、借りてきたらしい剣を持ってこちらに駆け寄ってくるところだった。
その剣を受け取った僕は、思い切り顔を引き攣らせた。
その柄の紋章に非常に見覚えがあったので。
少女はそんな僕の様子に少し首を傾げた後、トントントン、と軽やかに三連後方宙返りをして距離をとった。
ええいままよ、と剣を抜いて構える。
少女は不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
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