怠惰の魔王は異世界で青春を謳歌する

□第3話 王都とAと武闘大会
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流石にやりすぎたので魔法でクレーターを埋め、しばらく控室で反省した後。
決勝戦のために呼ばれる。
相手は小さめの杖を持った少年。
多分彼はあいつの傘下ではないんだろう。目には必死さがある。
…でもそれだけじゃないような。というか、どっかで見たような…
そんなことを考えているうちに。
「はじめ!」
審判の手が下ろされた。
ほとんどタイムラグなしに少年の魔法が飛ぶ。
威力はそこまでない。
とはいえ払うのも悪い気がして避ける。
続けて2発目、3発目と飛んできたが、軌道が直線だったので難なく躱した。
その時点で少年は息を切らしていた。魔力が切れたらしい。
その姿を見て、ふと思い出した。
見たことがある。それがいつかを思い出した。
ただ…
「君さ」
近づいて問う。
「予選じゃ剣使ってたよね」
「っ⁉」
そういうと彼は驚愕し、直後怯えたような表情になって観客席に振り向いた。
そこにいる家族と思しき貴族が何やら話しているので強化魔法で聴力を強化する。
「やはり駄目だな奴は。魔法貴族たる我らの面汚しだ」
「本当ですわ。せっかく王子様にお目通り叶うチャンスだというのに」
「兄上なんかに期待するからですよ。あんな魔力量のない奴なんかに」
…つまり魔法自慢の家族の中で魔力が低い彼は虐げられてきたんだろう。
そしてあの傲慢さである以上、きっと剣などを使うことは一切禁じられてきたに違いない。
「…惜しいなぁ」
彼はほんの2、3合だけで現役の騎士に(手加減されているとはいえ)勝ってみせた。相当な努力を積んできたであろうことは想像に難くない。
…お節介かもしれないが、ここは手を出させてもらう。
このまま耐え忍んでも、彼が幸せになる未来はないだろう。決別すべきだ。
「すみません、どなたか、剣をお貸しいただけないでしょうか?」
私はそう観客席に向かって声を張り上げた。
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