怠惰の魔王は異世界で青春を謳歌する

□第3話 王都とAと武闘大会
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一回戦の相手はそこそこ大柄な男だった。
そちらの紹介はすでに済んだらしい。
「対するは、ジュニア部門最年少!武闘家のグレイ!」
…いや、私魔法も使うから魔闘士っていうのが正解なんだけど。
そんなことを思いながら観客席を見渡すと、商人さんとその奥さん、それに今朝預けたシェリアが手を振ってくれた。
「…先に言っておく。棄権する気はないか?」
対戦相手の男が問う。
「全然。むしろその言葉、そっくり返すよ」
そう返すとむ、と少し黙る。
「…仕方あるまい。あの方のためにここで負けてもらう」
「…あー、なるほど」
ジュニア部門決勝開幕時にチラッと見た派手な少年が目に浮かぶ。
「まさか全員アレの傘下とかじゃないよね」
「お前ともう一人、違うやつがいる」
「…逆に言えばそれ以外全員か。エグイな貴族の権力」
そんなことを話している間に審判の手が上がりーーー
「はじめ!」
と声が響いた瞬間。
「すまんな!」
男が魔法を放つ。
いや、厳密には魔道具を使ったのだ。ゲームでいうところの攻撃アイテム。
「いや、謝る必要ないから」
放たれた魔法の火球を手で払いのけながら言う。
「な⁉」
「…じゃ、こっちの番かな」
他に打つ手なし、といった感じで怯え切った顔を見せる男に歩み寄る。
「…大丈夫。痛くはしないから」
使ったのは催眠魔法。
その場で眠りに落ちた男を一瞥し、審判に振り返る。
「どうでしょうか?」
「…しょ、勝者、グレイ!」
ざわざわと観客席が騒めく。
耳を澄ますと「手で魔法を…」だの「無詠唱で…」だの聞こえる。
…私、なんかやらかした?
そんなことを思いつつ控室に戻るのであった。

準決勝。
流石に8人しかないと出番が早い。
そして相手は…
「ふん、平民風情が…」
あの親玉貴族だった。
(関わると厄介そうだなぁ)
「せいぜい無様にひれ伏すんだな!」
「はじめ!」
審判の手が下ろされた瞬間、彼は朗々と詠唱を始めた。
(そういやこっちの世界で魔法ってみたことないな)
とりあえず完了まで待ってみる。
たっぷり数分後、ようやく完成した魔法は…
単に小さな風刃を飛ばすだけのものだった。
「え」
うっかり防御することすら忘れたが、胸当てに当たり傷一つつけられずに消えた。
流石は古龍の皮である。
「な…な…」
割と本気で驚いてるっぽい貴族少年に一言。
「これだったらさっきの奴の魔道具のほうがマシなんじゃないの?」
詠唱するんだったらさ…と言って目を閉じる。
「天上の彼方。星々の揺り籠。砕けた欠片は我が掌に」
そう詠唱して右手を上げる。
空中に魔法陣が出現し、隕石が召喚される。
「…これぐらいはやってもらわないと」
相手も、観客も、口を開けて見ているだけだ。
…やりすぎたか?まあいいか。
「落ちろ流星!『メテオストライク』!」
右手を振り下ろすと同時に、隕石が落ちる。
一瞬の揺れの後。残ったのは巨大なクレーターと、その横で泡を吹いて気絶する貴族少年の姿があった。
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