novel
□のるかそるか 7
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そんな気持ちが吹き飛んだのは、アルモに出勤したその日だった。
大野さんが客としてやって来たのだ。
だが、アイスコーヒーを運んだのは、わたしではなかった。
山野エリというわたしと同い年のウエイトレスだった。
目はそんなに大きくないが、色が白くて、動くとなんとも言えない良い匂いがした。
香水はつけていないそうだから、エリ自身の匂いだろう。
大野さんのテーブルにアイスコーヒーを置いた時、大野さんが「お」という顔でエリを見上げたので、わたしはだいぶ気を揉んだ。
大野さんがアイスコーヒーを飲む間、彼の近くを通りかかる時、痰が絡んだ振りをして、喉の奥から小さな音を発してみたりしたのだが、注意は引けなかった。
会計を済ませた大野さんが店を出た。
レジを担当したのもエリだったが、今度は大野さんは「お」という顔をしなかったのでホッとした。
一気に幸せな気持ちになった。