novel
□のるかそるか 6
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「あのさ、名無し名字」
野田が一呼吸置く。
「お宅の親御さんはなんて言っているのかな?娘が職場を辞めて、自分に気のない男を追いかけて上京する件について、ぜひご意見を伺いたいね」
と、良く通る声で滑舌良く言った。
親には東京で一人暮らしがしてみたいという貧弱な理由を押し通した。
年齢的には大人なのだから、どこで何をしようが親の承認は必要ないのだが、筋は通したかった。
親は真の理由をしつこく訊いてきた。
膠着状態が続いたある日、もしかして好きな人でもいるのかと、母が訊いた。
生憎わたしがつく嘘の限度は「本当の事は言わない」だった。
故に、黙りこくるしかなかった。
“好きな人はいない”なんて嘘はいえない。
代わりに口をついて出たのは
「野暮なことは訊きっこなしで頼むよ」
という軽口だった。
白状したも同然だった。