novel

□のるかそるか 9
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大野さんと初めて二人きりで焼き鳥居酒屋に行ったのは、初めて言葉を交わしたその日だった。







『どこかで会ったこと、あったよね。どこだかは思い出せないんだけど…』


と、大野さんは言った。


痩せてて、上背はそんなにない。


カウンターに片手をついて、腰の重心を静かに移し、わたしの顔をよく見ようとする。


アルバムの中の写真を見るような眼差しだった。


「忘れ物…」


大野さんが小さく呟く。


「喫茶店で、四月くらいに」


と、わたしは言った。
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