novel

□のるかそるか 3
1ページ/5ページ



撮影が終わってから、再び謝りに行った。


やや猫背気味なそのひとは、両手をゆったりと背中で組み、柔らかな表情でカメラマンと話をしていたのだが、わたしが近くまで行ったら、話をやめて振り向いた。


「お疲れ様でした」


と、先に声をかけてきた。


「ほんとうにすみませんでした」


わたしが言うと


「え?」


とちょっとかがんで耳を近づけた。


撮影が終わったばかりで、辺りが騒ついていたのだ。


フワリとした柔らかそうな茶色の髪の毛が、ほんの少しかぶさったそのひとの耳に向かって、わたしは


「ほんとうに、ほんとうにすみませんでした」


と陳謝した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ