novel
□のるかそるか 3
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撮影が終わってから、再び謝りに行った。
やや猫背気味なそのひとは、両手をゆったりと背中で組み、柔らかな表情でカメラマンと話をしていたのだが、わたしが近くまで行ったら、話をやめて振り向いた。
「お疲れ様でした」
と、先に声をかけてきた。
「ほんとうにすみませんでした」
わたしが言うと
「え?」
とちょっとかがんで耳を近づけた。
撮影が終わったばかりで、辺りが騒ついていたのだ。
フワリとした柔らかそうな茶色の髪の毛が、ほんの少しかぶさったそのひとの耳に向かって、わたしは
「ほんとうに、ほんとうにすみませんでした」
と陳謝した。