novel
□のるかそるか 6
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「名無し名字」
野田は声を太くしてわたしの名を呼んだ。
「あんたは実にバカだね」
と腕を組む。
「経済的に苦しいあんたが無理して東京に行ったら、あっという間に食い詰めるに決まってるよ。そしたらお金欲しさのあまり、深い考えもなく何をするか分かったもんじゃないよ。親御さんはそこを心配して、虎の子の百万円をあんたに貸すと言ったんだ」
「それくらいの察しはついてるよ。ずいぶん心配されていることくらい、わたしだって感じてるよ。好きな人がいるのかの一件でも、なんにも訊かないでくれて、ありがたいと思ってるし、信じてもらってると思ってるよ」
と、声を張ったら、
「そう思ってるんなら、なんでそんなにやりたい放題できるんだよ。…だいたい名無し名字自身の貯金は幾らなんだよ!」
と野田も声を荒げたので
「百万ちょっと切るくらいだ」
と答えたら
「へーえ、それっぽっちでよく上京の決意ができるもんだね。驚き桃の木だよ」
と野田はわざとらしく感心してみせた。