書物

□悪戯心と本音
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城下はいつも通り活気に溢れ賑やかでほっと息を吐く。

目的も無く彼方此方の店を見ていると離れた店に見慣れた人物を見かける。

(才蔵さん....?)

追いかけようと店を出た時既に才蔵さんは姿を消していた。

才蔵さんが立ち寄っていた店は呉服屋。

(才蔵さんがどうして呉服屋に...)

疑問を感じながらも気にすること無く再び歩き出すと再び見知った人物が。

(今度は幸村様と佐助くん...?)

二人は何やら難しい表情をしながら歩いて行ってしまった。

(才蔵さんに幸村様と佐助くん...城下になんて珍しい...)

幸村様は佐助くんとお買い物とわかるけど才蔵さんは....?私にも何も言わずに一人で....

そんな事を考え始めると悪い方へと考えがいってしまう。

頭を振り悪く傾いてしまった思考を追い払うと背後からくすりと笑い声が。

その声に振り向くと先程見失ったはずの才蔵さんがこちらを見て愉しげ(たのしげ)に見つめている。

優「才蔵さん!」

才蔵「こんな道の中心で頭振ってなにしてるのお前さん」

優「才蔵さんこそ城下にいらっしゃるなんて珍しいですね?」

冷静を装い尋ねるとにっこりと微笑みが返ってくる。

才蔵「まぁね。野暮用。」

(野暮用....やっぱり教えてはもらえないよね...)

俯く私の顔を覗き込みながら射抜く様な緋色の瞳と視線が交わる。

才蔵「...野暮用がなにかはすぐにわかるよ。城に戻る前に少し付き合ってよ。」

才蔵さんはそれだけ言うと私の手を引き甘味処へと入っていく。

食べてから帰るのかと思っていると才蔵さんは私を待たせ大量の団子が入った袋を抱えてくる。

優「此処で食べてはいかれないんですね」

才蔵「のんびり食べる程の余裕は無いからね。幸村も人使いが荒いよ。」

眉間に皺を寄せて団子を頬張ると才蔵さんは不意に空へと視線を向ける。
つられて私も視線を向けるとそこには鴉が弧を描く様に飛んでいる。

才蔵「はいはい。わかったよ。」

才蔵さんは微かに微笑むと団子の袋を私に押し付ける。

優「え?」

才蔵「しっかり持っててよ。落としたら買いに行ってもらうから。」

そう忠告を寄越して軽々と私を横抱きに抱え地を蹴って屋根伝いに走り出す。

優「え!さ、才蔵さん!?」

慌てる私を横目に才蔵さんは急ぎ足で城へと走る。
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