謙信の華

□華族 4
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謙信の走らせる馬が上杉領内に入ると謙信は馬の速度を落としゆっくり進み始めた
その横に景持が並ぶ

景持「二人とも疲れたのでしょう良く眠っておられますね…」

謙信「あぁ」

景持「まだ小さくとも月牙族…景勝様の覚醒姿も美しい」

大量にマリアの血液を吸収した景勝は覚醒姿を維持したままだった
余程の危険に命が晒されたのだろう…
この命を守れないとは私も総大将してはまだまだだ。

謙信「マリア…すまなかった」

遠い日の約束を思い出す……
「二度と刀を振るわないようにお前は私が守る!」そう誓ったのだがな。

「自分を責めないで謙信様…私は今も貴方に守られております」

謙信「マリア…」





城に近づくと心配していたのだろう兼続の姿が見えた、隣にはイマリがついている

兼続「謙信様!景勝!奥!」

謙信「もう大丈夫だ兼続、心配かけたな」

兼続の声に景勝が目を覚ました…
馬から飛び降りると兼続に抱きつき「ごめん……兼続」と涙ぐむ

兼続「し、心配させやがって……」

景勝「うん……ぅん……ごめん」



人払いをしマリアを部屋で休ませた
吸血行為にだいぶ体力を奪われたのだろう
目がちゃんと覚めるまで傍らに座り神器の手入れをした。

「謙信……様」

謙信「まだ寝ていろ」

「景勝は?」

謙信「大丈夫だ兼続と食事をしている」

「……そう」

そう呟いたマリアの瞳から涙が一滴こぼれ落ちた、傍らに座りその涙を拭う
「側に……い…て」それだけ言うとまた眠りに落ちた



兼続「景持さん……」

景持「どうしました兼続?」

兼続「その…奥って…刀とか扱えるの?」

その問いに景持は「何から話した方が良いですかね」とちょっと困惑の笑みを浮かべた、それに景家は「何時かは知る事だ今でも良いだろう」と……

謙信「そうだなお前達にはちゃんと知っておいて貰った方が良いだろう」

景持「謙信様、奥様は?」

謙信「良く眠っている大事ない…」

そう言って景勝を膝に乗せた、景勝も謙信の膝に大人しく座り四人で机を囲う

謙信「今から数年前の話になる……」



「厄魔の一斉排除をする」織田信長が見つけた厄魔の巣窟と言われる場所に上杉の筆頭として討伐に参戦した…
天下統一を目指す前に厄魔の存在は互いに目障りであり利害が一致していたからだ

その向かった織田の城で初めてマリアに会った…信長の傍らに立ち刀を腕に抱く姿を見て私は初めて女を美しいと思った

信長「姫巫女は今は不在だが…こやつは姫巫女と同等、いやそれ以上の力を持つ存在」

謙信「どうゆう意味だ?」

信長「陰と陽……すなわち闇の姫巫女だ」

闇の姫巫女…?
それにあの様な細腕で刀など振るえるのだろうか?と疑問にも思った…が
厄魔討伐の先陣を切って居たのはマリアだった。
軽い身のこなしに風の様に舞う剣舞に私は見惚れた…

何度か一緒に出陣したが話す事は一度もなく厄魔の湧き出る巣窟にもまだ到達出来ていなかった。

信長「マリア…何を考えている」

「…………」

ある日信長がマリアに詰め寄った
それでもマリアは顔色一つ変えずに信長を見つめ返している。
なかなか肝の据わった女だ……

信長「どうして厄魔の巣窟を見つけられない」

「…………」

返答をしないマリアに信長の苛立ちが募るのが分かる、更に信長はマリアとの距離を縮めている
流石に不味いと思った私は止めに入ろうとしたが信長はそのままマリアを強く抱きしめた。

信長「何故だ……何故」

その時、マリアと目が合った
その瞳に何か揺らめいてるモノを感じる
信長はふっと笑みを浮かべマリアを離した

その日の夜はなかなか寝付けず持ち込んだ琵琶を奏でてみた…
琵琶の音色に静まる心。
何故かあの二人の抱き合う姿が脳裏に浮かぶ…

謙信「……誰だ」

「………………」

柱の影からすっと姿を現したのはマリアだった。
何か言いたそうに唇を少し開くがなかなか言葉が出て来ない

謙信「私に何か用事か?」

「び……琵琶が」

想像していたよりも良い声だ
それにやはり美しいな……

謙信「すまないこんな夜更けに…もう終わったからゆっくり休め」

「……もっと…聞かせて」

そう言って私に近づく彼女からは甘い香りが漂う側に来ると正座し私を真っ直ぐに見つめている

謙信「ではもう一曲だけ…」

奏で始めるとマリアは目を瞑り琵琶に耳を傾ける…
何とも言えぬ不思議な夜だったのを覚えている。

その晩から毎日マリアは夜になると「琵琶を聞かせて?」と私の元を訪れた
悪い気はしない寧ろ喜ばしく思っていた矢先だった

信長「謙信…討伐隊から離脱しろ」

謙信「何故だ?」

信長「貴様が居ると厄魔の巣窟を見つけられぬからだ」

謙信「全く意味が分からぬな」

信長「意味か……ならば教えてやる」

そう言うと信長はマリアの腕を強引に引っ張っり背後から抱きすくめると顎を掴んだ

謙信「何をする乱暴はよせ…」

信長「毎夜毎夜俺の目を盗みこの男の元に通っているな?」

「…………っ」

謙信「彼女は私の琵琶を聞きに…っ」

信長「黙れ…!俺に媚びずこの男に媚びるのかマリア?」

謙信「やめろ信長」

信長「そんなにこの男が傷つくのは嫌か?」

謙信「何を言っているのだ信長、彼女を離せ」

信長はふんっと鼻で笑うとマリアを私目がけて放りその身体を受け止めると私の袖をぎゅっと握った

信長「何時まで経っても厄魔の巣窟を見つけられないのは……いや、見つけないのは謙信、お前の身を案じてだろう。この数日で謙信に何を見出したマリア…答えろ」

「……空……青い空…とても綺麗な」

信長「ふっ…馬鹿馬鹿しい闇の姫巫女が青い空など愚かな…お前に似合うのは闇だ」

私の腕でしゅんと俯く頭を撫で
今にも泣き出しそうな彼女を抱きしめた

謙信「青い空か…きっとお前にも似合うはずだ」

そう微笑む私を見て初めてマリアは笑顔を見せたその瞳の中に綺麗な蒼を浮かべて…

信長「そうかそれがお前の答えかマリア……なら謙信を今ここで殺す」

本気なのだろう刀に手をつけた
だが私もここで死ぬ訳には行かぬ
互いに刀に手を触れると突然「辞めて!」とマリアが声を張り上げる

「行きます…厄魔の巣窟に私一人で!」

信長「ほぅ…なら全て排除しろ」

謙信「ダメだ…一人で行かせはしない」

「良いのです私は貴方が傷つくのは見たくない」

そう言って部屋を飛び出す彼女を追いかけようとすると信長の容赦ない言葉が飛ぶ

信長「謙信!動向は許さんぞ…分かってるな民を思うなら…」

謙信「上杉の民を人質にするつもりか?」

信長「……お前次第だ謙信」

それだけ言うと信長は自室に籠った
民とマリア…秤にかけるつもりは無い

私は……私は……!
上杉の総大将、民の平穏な暮らしを守るのが私の役目ではないか……でも、それでも

私は彼女を守りたいのだ…
一人の男として。

私は信長の命に逆らいマリアを追いかけた既に厄魔と交戦していたマリアの刀は血塗られ美しい顔や手…身体も厄魔の返り血で真っ赤に染まっていた
無心に、刀を振るうマリアに私の声は届く事なく私は厄魔を薙ぎ払いながら近づいて行った。

謙信「これはっなんだ!」

今までの厄魔とは格段に違う!
気を抜けばあっという間に命を持って行かれそうだ…あと少しあと少しでマリアに届くと言う時だった、影に潜んでいた厄魔が飛び出し私の前に立ちはだかる
その厄魔目がけてマリアの刀が振り落とされた……
厄魔は切り落とされ絶命するもマリアの強靭な刃は私の胸も切り裂いた。

謙信「くっ!」

「け…謙信様ァァ!」

深手を負った私は木を背に倒れこんだ
胸から勢いよく血が流れる
このままでは私は死ぬだろう…

「なんで…なんで来たんですか!」

謙信「お前が…ほっとけ無くてな…くっ!」

「謙信様!謙信様!」

謙信「逃げるんだ…はぁっはぁ…お前にもきっと青い空が……見える…はずだ」

「貴方を置いて行くなんて出来ない!一緒に……居たいの」

謙信「そう…だな…お前と見て見たかった蒼穹の青……を…」

謙信の命の灯火が消えようとしていた
マリアは涙ぐみながら首すじを少し切りつけると謙信を抱きしめた
その血の香りが謙信の鼻をつく……
月牙族としての本能に逆らえず謙信は首すじに噛み付いた

「んっ!」

乾いた喉を潤すように私はマリアの血を求めた…裂かれた胸の痛みがなくなり、それどころか力がみなぎる
これが姫巫女の……血

唇を離すとマリアが心配そうに私の頬に手を当てている暖かいその手を強く握った…

「綺麗…青い空のように…」

本来の姿となった私を見つめマリアはそう言ってくれた

謙信「お前と青い空を一緒に見たい、私と共に来て欲しい……だからお前達は邪魔だ!」

覚醒した謙信の力はその場にいた厄魔を蹴散らした、もう呻き声一つしない。
マリアは刀を鞘に収めると「ごめんなさい結局、私は貴方を傷つけてしまった」と涙ぐみながら精一杯の笑みを見せた

「さよならです謙信様」

謙信「さよならなど言わせない私はお前と」

言いかけた所で馬に跨る信長が現れた
そうだまだ超えなければならない人物がいる、今の私に果たして倒せるのか…
第六天魔王と呼ばれる男を

颯爽と馬から降りるとゆっくりとマリアに歩みよる、私は刀に手をかけた…

信長「ふっ…闇が青い空を恋しがるとはな」

「………信…長様」

信長は柔らかな笑みを浮かべてマリアを抱きしめた、信長が笑った顔を初めて見た

信長「口惜しいが仕方ない…ずっと傍に居て欲しかったがな」

「…………信長様?…んっ」

信長はそっとマリアの唇に自分の唇を重ねた最後の別れを惜しむように…

信長「行け俺の気が変わらぬうちに…」

謙信「……信長」

信長「次に俺の元に舞い戻るなら、その時は…黒に染めてやる」

謙信「生憎だがその時は来ないだろう」

私はマリアの手を取り明け行く空の中、上杉領へと歩みを進めていた。
城に着く頃には空は青に包まれマリアは嬉しそうに見上げる

「青くて…綺麗」

謙信「そうだな…ところで」

「はい、謙信様」

謙信「抱きしめてもよいか…嫌なら別に構わないのだが…その」

鳴呼…私は何を言っているのだ
そうだ、信長が悪い。
私の前で彼女と口づけなどするからだ
私でさえまだだったのに信長めあっさりと口づけなど

「謙信様?」

謙信「な、なんでもな…い…んっ!?」

唇に柔らかい暖かいモノが触れた
マリアからの口づけ…
さらさらの前髪が触れて心地よい
気づけはしっかりと抱き深く口づけていた

「ぅんっ…謙信……ん…様」

謙信「もう少し……はぁ」

良いと言う合図なのか私の身体に腕を回してきた、くっついては離れ角度を変え何度も何度も口づけた互いの舌を絡ませながらずっとこうして居たくて…
やっとの思いで唇を離すと私もマリアも顔が真っ赤だった
その背後には…ふふふっと妖艶な笑みを浮かべた景持と両手で目を塞ぐ景家が…

謙信「い、い、何時からそこに」

景持「彼女が謙信様の唇に吸い付い時からずっと見てましたよ?ふふふっ」

景家「お、お、俺は見てません!」

――――
――――――
―――――――


景持「あれは衝撃的でしたよねぇ景家」

景家「謙信様の新たな一面を見たな」

謙信「お、お前達はそこしか見てないのだな」

景勝「母上とちゅっちゅしてたの父上?」

景持「景勝様、ちゅっちゅ所じゃ無かったですよ?」

謙信「か、景持その話はまた今度に」

兼続「そっか…姫巫女だから刀が使えたんだ…」

景家「そうだ、上杉の領地が豊かで他国から攻めらず平和なのは謙信様と奥様…姫巫女様のお力があってだ」

謙信「私達だけではない、景家、景持…それに兼続に景勝、皆が上杉を守っているのだ」

そう言いながら謙信は景勝の頭を撫でる
父の暖かく大きな手に景勝は安心したのか元の姿に戻った

兼続「あ、戻った」

謙信「さて話はここまでにして皆休もう」

謙信は景勝を抱いたまま自室に戻った
部屋に入ると景勝はマリアの布団に潜り込み頭をぴょこんと出すと謙信を手招きする

景勝「父上も一緒に…」

謙信「そうだな」

真ん中に景勝を挟み謙信はマリアごと抱きしめ眠りについた


続く



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