謙信の華

□華族 3
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景勝が私の城に来てから半年が経った
身長も伸び体重も増えすくすくと成長している、勉学は景持、体術は景家に任せ上杉の後継者となるべく日々励んでいた…

景持「今日はここまでにしましょう景勝様」

景勝「…はぃ…かげもちさん」

相変わらず言葉数は少ないが…
マリアの前だと良く喋りまだまだ甘え盛りだ

「景勝、おやつにしましょ」

景勝「母上……抱っこして?」

「はぃはぃ」

盛られた菓子の器を置くとぴょんと膝にのりすりすりと顔を寄せる
その頭と耳をマリアは優しく撫でた
尻尾はちぎれんばかりに揺れている
嬉しくて仕方ないと言った所だな

兼続「まぁた景勝はべったりなんだから」

「はぃはぃ兼続もおいで?」

兼続「い、い、良いよ俺は!」

そう言い放つ兼続の尻尾もちぎれんばかりに揺れている、そんな兼続をマリアは強引に腕に引き込み頭と耳をなで上げた

兼続「…………ふん」

撫でられ気持ち良いのだろう…
尻尾もゆらゆらとしている。

ふふ……まだまだ子供だ可愛いものだ

景持「謙信様」

謙信「どうした景持」

景持「謙信様も奥様の膝で休憩したらどうですか?ふふっ」

何故だ何故景持には私の心の奥底を見られてしまうのか!いや落ちつくのだ…
私は上杉の総大将…これくらいの事で揺らいではならない。

景持「別に心の奥底を見ている訳ではないんですけどね?」

謙信「何故分かるのだ…!?」

景持「えぇ…謙信様今の全部口に出してましたから」

な、なんだと……口にして発していたのか!私とした事が……不覚!

「思っている事が分かる…そんな貴方が好きですよ」
そう言ってマリアが私の背に抱きついた

謙信「うむ…そうか…ありがとうマリア」

景持「おゃおゃお二人の熱にやられそうです私は外の空気に当たって来ますね」

景持が出ていくと景勝と兼続の姿も見たあらなくなっていた

謙信「景勝と兼続は?」

「裏庭に柿を取りに行きましたよ」

謙信「そうか……」

二人きりになってしまった…
するとマリアは私の隣にぴったりとくっ付いて座る
そして私の身体を半ば強引に倒し膝に頭を乗せ頭と耳を撫でる

謙信「ん…………」

「どうしました?」

謙信「膝枕もなかなか良いものだな…」

「ふふ…良かった」

暖かい日差しの入る部屋で膝枕をしてもらう…私にとっては贅沢の極み
長く続いて欲しいと願うばかりだ。


景家「謙信様ー!!……おわっ!」

声を張り上げ部屋に勢い良く入ってきた景家は膝枕で横になる謙信に驚きすぐ様背を向けた、そして謙信も慌てて体勢を直し軽く咳払いをする

謙信「ど、どうした景家」

景家「上杉領に武田軍がっ」

謙信「何!?」

景持「謙信様!」

次いで景持が部屋に飛び込む
武田の急襲の知らせを聞いてやって来たと思っていたが…

景持「大変です!景勝様が…」

景勝の名を聞いてマリアの顔色が変わる、裏庭に柿を取りに行っていた景勝と兼続が三人組の男達に攫われたと…

景家と景持は顔を見合わせ、額からは汗が流れる、武田の急襲…景勝の誘拐、二つの件案に謙信は頭を痛めた

景家「ど、ど、どうすればっ」

謙信「待て……今」

「謙信様…景持さんと景家さんと共に武田を、私は景勝を探しに行きます」

景家「奥!無茶です一人でなんて、せめて私か景持を!」

「景家さん私なら大丈夫です。謙信様、今一度私に神器を…」

そうだ…
今、景勝を任せられるのは神器を扱えるマリアしか居ない。

謙信「分かった…私は武田の対処にあたる、お前は景勝を……頼む」

「はい」

そして早々に各々が準備に取り掛かり数刻後、城門前で落ち合う
愛馬に跨るマリアの姿に景持も景家も驚きを隠せない
高く結いあげられた髪に純白の上杉の軍装

謙信「マリア…これを」

そう言って謙信はマリアに神器の刀を渡した、マリアは神器を受け取ると悲しく微笑む…

「謙信様…ありがとうございます。必ず景勝を連れ帰ります」

謙信「武田とのけりが付いたら私も直ぐに向かう、気をつけるのだぞ」

「はい、場所が分かりましたらイマリを使いに出します」

謙信は名残り惜しそうにマリアの頬に触れた、その手に自分の手を添え数秒見つめ合う

「刃を振るう私をお許しください…」

それを謙信の耳にこそりと呟くと刀を腰に挿し馬の首尾を変え走り出した。
謙信はその姿が見えなくなるまで見送ると空を仰ぎ目を瞑る…

謙信「景持、景家、行くぞ…!」

景持「はい」景家「はい!」

空を仰いだ謙信の目が滲んでいた…
でも景持と景家は聞く事も出来ず謙信の背中に付いて行くしか無かった。



マリアは景持から聞いた情報を元に山を駆けていた、暫く行くと大きな木に兼続が吊るされていた。

「兼続!」

兼続「奥……奥ー!」

「もう大丈夫よ!じっとしてて今降ろしてあげるからね」

結わき付けられた紐を刀で切り離すと兼続が上から落ちてきた
それをマリアはしっかりと受け止めた

「大丈夫!?怪我はない?」

兼続の体に付く葉っぱや紐を外すと兼続は声を上げて泣きじゃくりマリアに抱き付いた

マリアはその身体をぎゅっと抱きしめ背中を撫でながら「大丈夫…大丈夫よ、兼続が無事で良かった」と。

「兼続、景勝は?近くにいる?」

兼続「わ、分からない……お、俺だけ邪魔だって言って…木に」

「三人組の特徴は?」

景持「へ、へんな煙出したり風を吹かせたりしてて、それで景勝の姿が見えなくなって……俺、俺!」

更にマリアは兼続を強く抱きしめた
「ありがとう兼続、後は私に任せて…」

兼続「でも!俺!」

「イマリ!居るんでしょイマリ!」

イマリ「は、はい!ここに!」

「イマリは兼続を連れて上杉の城へ、私はこのまま景勝を探しに行きます」

兼続「でも!」

「兼続、謙信様が戻られたら真田領に兵を寄越すように伝えて?」

イマリ「さぁ兼続さん行きましょう!」

うしろ髪ひかれる思いの兼続だったがマリアの言う通りイマリと上杉領に向かった

暫く森を進むと三人組の若者がマリアの前に立ちはだかる。

「真田の三馬鹿ね?」

佐助「なんだとー!」

「一度しか言わないわ?景勝を返して」

その言葉に佐助達は忍術をマリアにぶつけてきた
だが三人いっぺんの攻撃も身体を掠めるそよ風ぐらいにしか感じないマリアは神器を鞘から抜くと三人にめがけて振り落とした

「うわぁぁ!」

神器から放たれる閃光に佐助達は尻餅をつくがすぐ様第二波が放たれる
無表情で刀を振るうマリアに恐れをなし三人は退却を始めた
しかしマリアは容赦なく刀を振るう

「逃がさないわよ…」

佐助「くそ!」

交わした攻撃…だが一瞬でマリアは佐助の首に刀を突きつけた
その瞳は冷たく怒りに満ちていて佐助は身を竦めた

「景勝を返しなさい」

恐怖で言葉も出ない佐助にマリアは躊躇う事なく刃を振り落とす…

「待て!」

その声に反応したマリアは寸での所で刀を止め声の方に振り返った
真田軍 総大将 真田幸村が息を切らしながら二人に駆け寄る。

幸村「待ってくれ……頼む話を聞いてくれ!」

「……景勝はどこ?」

佐助の首に宛てていた刀を幸村に向けると幸村は固唾を飲んだ…
何も写さない色のない冷たい瞳、慈悲と言う言葉さえ見つからないその出で立ちに幸村は本当に仲間諸共殺されると本能で感じたからだ。

幸村「上杉景勝なら僕の城にいる」

「すぐに連れてくる事ね?この仲間の首が繋がっているうちに……ね?」

幸村「連れてくる事が出来ないんだ…その怪我をしていて…っ!今、城で手当てを」

「……お前達の仕業?」

気圧されそうなマリアの気迫に幸村の額からは冷たい汗が流れる…
しかし、幸村は拳をぎゅっと握りマリアを見据えた。

幸村「や、厄魔に襲われたんだ…」

「厄…魔?」

幸村は事の顛末をゆっくりと確実にマリアに伝えた
佐助達は確かに景勝を連れ去ろうとした
でもそれは景勝を殺したり傷つける為では無くて上杉をちょっと困らせてやろうと言う浅はかなものだった
しかし、その途中…厄魔が佐助達と景勝を襲った三人は景勝を守りながら厄魔と戦ったが……
窮地に陥った佐助を景勝が身を挺して庇ったと

佐助「こ、こんな事になるなんて思わなくて!だから上杉に伝えに行こうって!」

真意に話す幸村と涙ぐむ佐助を見てマリアは刀を鞘に収めた。

「すぐ景勝の所へ案内して!」

幸村「分かった!付いて来てくれ!」


少し馬を走らせると真田の領内に着いた
手網を握るマリアの手は汗ばみ震えている、案内された部屋には幸村の兄 信之と数人の侍女と医師が景勝を囲っていた

幸村「かなり傷が深くて……」

肩で息をする景勝の懐や顔には血がこびりついて重篤な症状は一目で分かった

「か、景勝!」

医師を押し退け傍らに座るとその手を握った…冷たい指先にマリアの瞳からは大粒の涙が零れた

「なんで……こんな!」

景勝「は…はは……う…ぇ」

薄ら開いた景勝の瞳に大好きな母の顔が写ると景勝は涙を見せる
母に抱きつきたい…景勝は持てる力を持って起き上がろとした。

マリアはその身体を抱きあげると刀を鞘から抜いた

幸村「何を!」

「死なせはしない…景勝…お前は私の宝、謙信様と私の大事な唯一の子」

マリアは軽く自分の首を切りつけた
血の流れる首すじに景勝の唇をつけた

「景勝…さぁ飲みなさい」

その血の甘い香りに景勝も真田勢も本能をざわめかせる…
景勝はからからに乾いた喉を潤すようにマリアの首すじに吸い付いた。

「んっ……」

景勝「ぅん……ん」

求めるがままに血を吸い続けると景勝の髪の色や瞳の色が変わり顔には血の気が満ちてきた…

幸村「す…凄い…どうして…」

ゆっくりと唇を離すと厄魔に裂かれた傷は完全に塞がり景勝は元気を取り戻した

景勝「母上……」

「景勝っ……良かったっ本当に…こんなに母を心配させて…め!なんだからね?」

景勝「ごめんなさい…母上…うぁん!」

力いっぱい抱きつく景勝をマリアは強く強く抱きしめた…
その顔は母そのもので幸村達はさっきまでのマリアとは全然違う事に安堵しその場にへたりこんだ。

才蔵「大変だ幸村!上杉謙信がこっちに向かってる!」

幸村「分かってる…どんな処分も俺は受け入れる。それだけの事をしてしまったんだからな」

それから数刻もせず上杉軍が真田領に入った、真田兵が謙信を景勝とマリアのいる部屋に案内すると謙信は事態を全て把握したかのように幸村に話を始めた。

謙信「最悪の事態は免れたようだな…」

幸村「も、申し訳ありませんでした!」

謙信「マリア 景勝、大丈夫か?」

「はい、謙信様…」

抱き合う二人を見て謙信は安堵のため息をつくと幸村とその場にいた医師、侍女…
兄 信之と三人の忍に冷たく言い放つ

謙信「此度の一件…真田の総大将でありながら家臣を制御出来なかっお前の咎でもあるぞ幸村」

幸村「重々承知しています」

謙信「二度このような事をしないと誓うのだ私の妻や子に災いを為さぬように、よいな」

幸村「心得ました……」

謙信「それと今日見た事は門外不出…もしこの秘密が漏れたと分かったら私は真田を滅ぼすだろう…それだけは肝に命じておけ。」

幸村「し、承知しました…」

謙信「マリア?立てるか?」

「はい、大丈夫です」

そう言うとマリアはしっかりと景勝を抱き腰に神器を挿した

謙信「行こう」

謙信はマリアの肩を支え歩き始めた
幸村は二人を追いかけ心に残る疑問を投げかけた。

幸村「上杉…謙信」

謙信「なんだ…」

幸村「貴方の奥様は……そのっ!」

その問いに謙信はふっと笑を浮かべた

謙信「お前が思っている通りだ愛して病まない私の大事な妻であり…姫巫女でもある」

幸村「大事…なんですね」

大事…その言葉に謙信は目を細め隣にいるマリアを愛おしそうに見つめる

謙信「あぁ…上杉の総大将としての立場を忘れる程に愛している」

それだけ言うとマリアと景勝二人を抱き馬に騎乗し真田領を後にした。
恐ろしい思いをした幸村だったが三人の幸せそうな顔みて自分も自然と笑みをこぼしていた

幸村「愛か……良いな」


続く



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