謙信の華

□華族
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冬の寒い日だった。
小雪混じりの朝方に現れた、まだ幼き小さな月牙族
こんなに寒いのに薄着で身体のあちこちは傷だらけ足に履いていただろう草履はその役目を果たしておらず足は無残にも血に塗れていた。

その小さな月牙族が自分の甥と知ったのはつい先程、景勝と名乗る自分に良く似た容姿に握りしめていた一通の手紙…

私の姉が景勝を一人この城へ寄越したのだ



謙信「…景勝」

名を呼んでもびくりと身体を震わせる
道中どんな目に合い必死にこの城まで着くのは容易ではない事が伺える。

「謙信様!」

この事態に声を荒げたのは家臣でもなく
私の妻だった。

「こんなに怪我もして身体まで冷えきって…さぁこっちに」

妻のマリアがそっと手を出すが景勝は俯いたままだった…それでもマリアは景勝の頬にそっと触れた「もう大丈夫よ…」と
手のぬくもりと言葉に景勝は目にいっぱい涙を溜めている。
そして恐る恐るマリアの手を握った

「さぁ中へ入って身体を暖めましょう」

マリアは景勝の身体を抱きあげると壊れ物を扱うようにその胸にしっかりと抱きしめその冷たい頬に自分の頬を擦り寄せた。

謙信「マリア…」

「謙信様お話は後で。まず景勝を…」

謙信「頼む……」


景勝を抱いたマリアは部屋に入ると景勝を抱いたまま侍女に支持を出す。

「部屋をめいいっぱい暖めて、それから布団と暖かい飲み物を、それから……」

慌ただしく侍女達が準備に取り掛かる
それを見ていた景持が「私は謙信様の姉上様にお目通りしてきます」と言い。景家はそれに同行すると城を後にした。
年の近いであろう兼続はどうして良いか分からずおろおろとしている。

謙信「兼続、大丈夫だ。私の奥がしっかりと景勝の面倒を見てくれる。お前は奥に用事を頼まれたら出来る限りのお手伝いをしてあげなさい」

兼続「はぃ!謙信様!」

私は姉からの書状を手に自室に向かった
封を切らなくても大方予想はつく。

謙信「実の子になんとも酷い仕打ちを…」

書状を読み終えた謙信は怒りに任せ書状の握り潰した




兼続「奥〜ねぇ〜奥〜」

「何、兼続?」

兼続「そいつ大丈夫なの?」

「そうねぇ」と言いながら湯で絞った布で景勝の身体を撫でるように優しく拭っていく。身体が綺麗になると新しい着物を着せ替えた。その上からは更に羽織をかけて…
足の傷は薬師が泥や汚れを丁寧に払い
傷には軟膏を沢山塗ってた。

足に包帯がきっちり巻かれると奥は
景勝を布団にゆっくりと寝かせた。

「暖かくなってきた?景勝」

その問いに景勝は頭をぷるぷると振る
じゃあこうしましょか?と景勝の布団に潜り込み布団の中で景勝を抱きしめ横になった。

「ほら、くっつくと暖かいでしょ?」

景勝「……ぅん」

布団にくるまり奥は景勝の頭を撫でている安心しきった景勝も小さな腕をめいいっぱい広げ奥に抱きついている…
なんだろ胸がもやもやする。

「あ!兼続っ……今日は野菜たっぷりのお鍋にするように料理長に伝言お願いね?」

兼続「お、おぅ……」

そう言って笑顔を向ける奥……
俺は多分…景勝が羨ましいんだきっと。




夕餉の支度が出来る頃になると姉の城から景持と景家が戻ってきた。
しかし表情は穏やかではなく無理難題を突き付けられたのだろう…

景持「謙信様…どう致しますか?」

暫し考えてる間、景持と景家は黙って私からの返答を待つ。
今出来る最善の策は……

謙信「…景勝を私の養子として迎える」

景持も景家も一瞬目を見合わせ
「謙信様の決めた事に異存はありません」と2人は頭を下げた。

景持「ところで景勝様は?」

謙信「今、奥と一緒に食事をしているだろう。私も今から様子を伺いに行く。景持、景家…ご苦労であった食事でもしてゆっくりしてくれ」

「ありがとうございます」と頭を下げる2人を部屋に残し私はマリアの部屋に向かった…足取りは重い。
血の繋がらない私の甥を自分の息子として育てて欲しいと…
本当なら言わなくても良い事を私はマリアに言おうとしているのだから

私のため息は白く辺りに舞った。





「景勝…ご飯よ、熱いからふぅふぅしてあげるね……はぃあーんてして?」

景勝「……あー」

料理を口に運ぶと美味しそうに食べ始めた
「美味しい?」と聞くとこくんっと頷く

その様子を見ていた兼続はちょっと苛立ちながら椀に自分のおかずをよそい勢いよく口に運んだ

兼続「あっちぃ!!」

「ちょっと兼続!熱いんだから気をつけて食べないとダメよ、火傷しちゃうわ貸して!」

そう言って俺から椀を奪って食事を箸で挟むとふぅふぅと息を吹きかけている

「ほら、兼続…あーんてして?」

兼続「べ、別に俺は!」

「良いから、良いから……ね?」

否定的な事を口にしても兼続の胸は高鳴っていた近づく箸……兼続は口を開け料理をマリアから食べさせて貰った

兼続「う、旨い!」

「たくさん食べてね?」

そう言って奥は景勝と俺に順番にふぅふぅしてくれてご飯を食べさせてくれた



謙信「忙しそうだな……」

「あ、謙信様」

景勝を膝にのせ、その側で兼続までもがマリアから食事を食べさせて貰っている。微笑ましい光景だ…

「謙信様?お食事は?」

謙信「あぁ、まだだ」

では一緒に皆で食べましょうと私の分も用意してくれた
景勝と兼続に食事を食べさせている姿を横目に私も椀に口をつけた

謙信「あっつっ!」

咄嗟に口元を押さえると兼続が「謙信様もふぅふぅしてもらうと良いですよ!」と目をキラキラとさせている。

謙信「大丈夫だ私は自分で……」

「はい謙信様あーんてして?」

謙信「……え?あ、あぁ」

私は……妻に食事を食べさせて貰っているか?少しあいた間、羞恥で顔が熱くなるのを感じる…
でも、たまには悪くないここには子供達だけだ

景持「おゃおゃ謙信様……ふふ」

謙信「か、景持!?」

1番見られたくない人物に見られてしまった
「私に気にせずどうぞ続きを…」なんて笑いを堪えているようだ…

謙信「ど、どうした景持」

景持「えぇ景勝様の様子を伺いに来た所ですが…なかなか良いものを見せて頂きましたよ、ふふっ…では私はこれで失礼します」

それだけ言うと一礼して部屋を後にした
口元を押さえながら…
今夜はこの話で景家と盛り上がるのだろう
鳴呼…願わくば変な尾ひれをつけぬように

食事が終わると景勝と兼続はうつらうつらし始めマリアは静かに食器を片付けている。話をするなら今だろう…

謙信「マリア…実はお前に大事な話がある」

「はい…景勝の事ですね?」

謙信「うむ……」

意を決して言おうとしたら「謙信様見て?」と唇に人差し指を添えて仲良く布団で眠る景勝と兼続を指さした

謙信「ふふ…可愛いらしいな」

「でしょ?こんな子の母になれたら私は幸せ…」

謙信「マリア……」

すっと私の傍らに来ると髪を掬きながら頬を撫でて「言いずらかった?」と尋ねてきた。

謙信「……本当にお前には敵わぬ」

その日から私と景勝とマリアの血の繋がりを超えた家族としての物語が始まった



続く



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