御題
□クロロが恋だと気付いたのは
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ここのところ特に取り立てて欲しいものも無く
盗賊業は休止中だ。
こういう時は専ら読書に専念する。
この時間帯は電気などなくとも窓から射す光だけで充分だ。
「団長、なんかやることない?」
俺の部屋をノックもせずに入ってくる人物。
「そんな、日陰で本ばっかり読んでたらカビ生えちゃうよ。」
どうやら、長引いた休日に暇を持て余しているらしい。
「心配はいらん、人間にカビなんか生えない。ついでにやる事はない。」
俺は本から目を離さない。
「何読んでんの。」
俺の近くで声がして、今ベット付近に腰を下ろしているんだと察する。
「恋愛小説だ。」
「うわ、意外。
団長でも共感とかしちゃうわけ?」
「いや、全くもって理解できんな。
俺はSFだと思って読んでいる。」
実のところ、本当に意味などわからない。面白くもなんともないが、時折中身のない本もつまみたくなるものだ。
「こいつらは本当に俺と同じ生き物か?
相手の顔を見て胸が高鳴るなんて本気であるのか?
これがフィクションってだけか?」
「え、ないの?ちょっといいな、とかさ。綺麗だなー触れたいなーとか。」
「触りたいと思うことは多々あるぞ。
何処とはあえて言わないが。」
と本から顔を上げて答える。
「うわ、最低。」
「最低なもんか、女の臀部や脚は偉大だぞ。たまに拝みたくなるぐらいだ。
まぁ、拝むだけで済ませるのが俺の紳士で真摯なところというか。」
そう真っ直ぐ見て言ってやる。
大事なことだからだ。
「あははっ!何それ、くっだらない!でんぶ!しんし!腹痛い!」
破顔している彼女を見て、何か言い知れない感情が起こった。
今までにない胸の動機に、一瞬呆けたようになる。
しばらく笑い転げた後、彼女はベッドに仰向けになった。
彼女の顔が陽に照らされて、髪も肌も色素を薄める。
綺麗だ。触れてみたい。
盗んだ宝石や、絵画を鑑賞する時の感情に少し似ている。
でも、全然違う。
「成る程な。」
そう呟いて情けなく笑う。
クロロが恋だと気づいたのは、
どうでもいいことに笑ってくれた時。