御題

□シャルナークが恋だと気付いたのは
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遅くなった夕食を摂りながら、
ディスプレイの数列を見て、素早くタイピングをする。

「こんなので鍵、かけたつもりなわけ?」
ハンバーガーを食べながら、
1人部屋で呟いた。

朝飯前、というか、
飯を食いながらでも余裕で出来る作業である。

社会のセキュリティー構造がお粗末なのか、
はたまた自分が有能なのか。

難なく仕事が完了し、報告しにと自室を出る。

「シャル、お疲れー。」

「うん。お疲れー。」

廊下でアラシとバッタリ会った。

「これから団長とこ?」

「そー。報告。どこいるか知ってる?」

「あー、広間に居た。」

「おっけ、サンキュ。」

そんな会話を交わして、
俺はその場を後にしようとする。

「あ、ちょっと待って。」
とアラシが俺を引き止めた。

「んー?何?」

「ここ、ケチャップついてる。」
と言って笑いながら、俺の頬を撫でる。

「こんなとこつけてるなんて
一体どんな食べ方したわけ?」

そう言って、
俺をからかうアラシは素直にかわいい。

しかし、かわいいからと言って、それが恋愛感情なのかと言われれば違う話だと俺は思う。

きっとこれは、長年付き添った情であり、
あの雄々しく荒々しくガサツな団員の中での、「掃き溜めに鶴」の様な役割を果たしているアラシに向ける一種のときめきだ。

「あははー。悪い。みんなにからかわれるとこだった。」

片手を上げて、アラシと別れる。

「うん!頑張ってー!」
無邪気なアラシ。
そう、これはやっぱり「掃き溜めに鶴」

広間に行くと、皆が思い思いに自分の時間を楽しんでいた。

「おー。シャルお前もダウトするか。」

「シャルがいるなら何か賭けろ。
俺ら特しかしねぇから。」

と皆好き勝手に話している。

「あーはいはい。
俺はどうせ万年ビリですよっと。
あ、団長、ハッキング終わったよ。」

そんな野次を適当にスルーして、
1人読書に勤しむ団長に声をかけた。

「そうか。よくやった。
で、お前何かされて嫌なことはあるか。」
と俺の顔を見る団長。

「は?何で。」

「罰がないと、
ゲームは盛り上がらないだろう?」

どいつもこいつも、俺をからかう気でしかいないのか。
そこでアラシのことが頭をよぎる。
なんて彼女は俺にとって人畜無害なことだろうと。

結局カードゲームに参加させられてしまった。
まぁ暇だから別にいいんだけど。

俺がここに来たことによって、アラシ以外の全員が広間に集まっていることになる。
アラシもこっちに来ればいいのに。
そんなことを思ったりした。

「アンタ、今アラシのこと考えてるだろ。」

「は。」
図星に背中がヒヤリとする。

「いや、ほら、みんな来た方が楽しいし。」
そんな自分の言葉になぜか嘘をついている様な気分になった。

「ハハ、シャルはアラシにお熱ね。」

「なっ!違うって。」

それから皆ゲームそっちのけで、
昔のことを掘り起こす。

「あの時、敵に技かけられそうなアラシ全力で庇ったりしてなぁ?」

「そう言えば、アラシが小さな怪我したときなんか、血相変えて走って来ましたよね。」

「シャルは以外と、
本命には優しいタイプなんだな。」

「あら、素敵だわ。」

盗賊団に思いやりとは、随分な言い方である。
それにしても、
俺がアラシにお熱?そんなわけない。

仲間を助けるのは当たり前‥な訳ではないけど、これは可愛い妹を思う様な気持ちで‥いや、俺家族なんていたことないし。

いろんな言葉が頭を巡って訳が分からなくなりそうだ。

「言っちまいな。
アラシのこと好きなんだろ?」

そう迫られて、皆の視線が突き刺さる。

「んなわけないだろ?俺がまさか。」

「嘘いいなよ、
アンタ嘘つく時、携帯出す癖あるんだよ。」

「え。」
ふと見た自分の右手には、愛用の携帯が握られていた。

「まじだ。」
それから俺がどうなったか、
言わなくとも分かるだろう。


シャルナークが恋だと気づいたのは、
不意に見せた癖を指摘されたとき。


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