御題
□フェイタンが恋だと気付いたのは
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身体が怠い。
フェイタンはアジトの広間に座り、じっと身を固めていた。
立て続けの苛酷な仕事が祟ったか、
それとも、普段からあまり睡眠をとらない己の生活に非があったのか、
何が原因かは分からないが、具合が悪いのは事実である。
体力に自信があるフェイタンだったが、こんなことで体調を崩すなど、自分もまだまだ未熟だと認めざるを得ない。
少し横になれば治るだろう。
ふらつく体をなんとか支え、自室に戻ろうと広間を後にする。
「フェイ、顔色よくないよ。大丈夫?」
とフェイタンの背に声を掛ける人物。
声音で誰かすぐに分かった。
旅団員のアラシだ。
「なんともないね。
ただ、ちょと気分が悪いだけ。」
本当は、ちょっとどころではなくかなり気分が悪いのだが、同じ団員とはあれど、弱みを見せるわけにはいかない。
「え、ちょっとってすごく顔色悪いよ?」
アラシは本気で心配そうだ。
いつも仲間のことを誰よりも考えるアラシの性格は、今までの活動の中で手に取るように分かっていた。
無視して部屋を出るフェイタンに、
執拗にもアラシはついて来る。
「‥何か。ワタシ、ちょと寝たい。」
「それはそうだと思うけど、すごく辛そう。
もしかして風邪ひいたんじゃない?」
“風邪”
その単語を聞いて合点がいく。
元来、病気や怪我なんていうのはあまりしたことがなくすっかり失念していたようだ。
「ああ、そうかもしれないね。」
不安気なアラシを見ていると、
何故かそれに相反して、つい本音を言い頼りたくなった。
「やっぱり。先に部屋、戻ってて!」
アラシは踵を返し、何処かへ走って行ってしまった。
不意に心細さがフェイタンを襲う。
「ハハ、ワタシ相当弱てるね。」
部屋に戻り、ベットの上に身体を埋める。
寒気がし、喉がひりつく。
これは完全に風邪としか言いようがない。
程なくすると、アラシがどこから調達してきたのか、氷やタオル、それから清涼飲料水など一抱えして部屋に入ってきた。
「はい、これ飲んで。薬だよ!」
「ん。」
痛む喉を我慢しつつ
渡されたそれを飲み下す。
「じゃあ、熱測ろう!」
そう言って、自分の額を近づけてきた。
額と額がピタッと触れる。
思わず飛び退く。
その瞬間甘い匂いが鼻をくすぐる。
「なにするかっ!」
「え、熱測るのってこうやるんじゃなかったっけ。」
自分が風邪だと分からなかったフェイタン同様アラシもこういう時にどうすればいいのか深くは知らないらしかった。
「いや、体温計とかあるだろ。」
「あっ!そっか!頭良い!」
どっかで盗って来ると部屋を出ようとするアラシの腕をフェイタンはぐいと引っ張った。
「え?どしたの?」
自分でも、その行動に理解ができない。
理解ができないまま、勝手に口が開いていく。
「‥ここ、いるね。」
そう言うフェイタンに、アラシは優しく笑いかける。
「分かった。フェイは甘えん坊だなー。」
「うるさい。」
悪態をつきながらもアラシの手は離さなかった。
「大丈夫だよ、すぐよくなるよ。」
とアラシは更に手に力を込める。
その時、どこからか降って湧いたかのように、1つの感情が起こる。
そうか、私は。
「これはなかなか治らないかもしれないね。」
今ようやく気づいたんだ。
フェイタンが恋だと気づいたのは、
身体の一部に触れた時