太湖船
□借りものだとさ
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五分程放心した後で
気を取り直し、昼食を摂りに食堂に向おうと決める。
カバンを肩にかけ、廊下を出る。
と、なんとそこには今1番顔を見たくない人物がいた。
「女子大生さん、コンニチワ。」
奴だ。
笑いながらこちらに声をかけてくる。
昨日といい今日といい、
予想外のことが起こりすぎて疲れる。
無視して通り過ぎようとしたが、前に立たれて防がれてしまった。
「ワタシ無視するなんて、度胸あるね。」
ニヤッと笑った顔は、物凄く悪人面。
さっきの教室での爽やかな態度はなんだったんだ。
観念して返事をする。
「‥一体なんなんですか。
ここの講師なら昨日どうしてそう言わなかったんですか。」
「ワタシ、お前がここに通てるなんて知らないね。」
あーいえばこういう‥。
仮に私がここの生徒でなくても名乗るべきではないのだろうか。
「ていうか貴方、名もない中国人なんて言ってたけど、名前あるし、流暢に話してるし得体が知れなさすぎます!」
イライラが頂点に近くなり、声を荒げる。
「得体は知れてる。
ワタシはワタシね。我思うゆえに我あり。
知てるか?お嬢ちゃん。」
と楽しそうに小首を傾げる。
これは、完全に遊ばれている。
「私、急いでるんで、それじゃ。」
と言って、足早に廊下を通る。
「ハハ、昼飯なら奢てやる。
昨日の礼ね。」
そう言いながら、私についてくる。
「結構です!」と叫び廊下を早歩きする。
振り切りたいが意外にもこの男、足が速い。
「遠慮するな。」と言いながら
結局、食堂までついて来られてしまった。
「何食べたいか。なんでもいいね。」
「だから、結構ですって。
ていうか、もう関わらないでいただきたいんですが。」
「借りを返さないと、ワタシの寝覚め悪くなるね。」
どれだけご都合主義なのか。
ここで嫌だと言っても
通用しないことはだんだん分かってきた。
当たり障りなく終わりたい。
「‥分かりました。
でも、金輪際関わらないでくださいね。」
もう、こんなことはまっぴらだ。
私はただ平和に毎日を過ごしたいのだ。
「可愛げないと
誰にも相手にされなくなるよ。」
「余計なお世話です。」
本当に余計だ。
こうなったら、1番高いAランチにしてやる。
私も負けじとひと睨みして
それから、2人で中に入る。