太湖船

□借りものだとさ
1ページ/3ページ


五分程放心した後で
気を取り直し、昼食を摂りに食堂に向おうと決める。

カバンを肩にかけ、廊下を出る。

と、なんとそこには今1番顔を見たくない人物がいた。

「女子大生さん、コンニチワ。」

奴だ。

笑いながらこちらに声をかけてくる。


昨日といい今日といい、
予想外のことが起こりすぎて疲れる。


無視して通り過ぎようとしたが、前に立たれて防がれてしまった。

「ワタシ無視するなんて、度胸あるね。」
ニヤッと笑った顔は、物凄く悪人面。

さっきの教室での爽やかな態度はなんだったんだ。

観念して返事をする。

「‥一体なんなんですか。
ここの講師なら昨日どうしてそう言わなかったんですか。」

「ワタシ、お前がここに通てるなんて知らないね。」

あーいえばこういう‥。

仮に私がここの生徒でなくても名乗るべきではないのだろうか。


「ていうか貴方、名もない中国人なんて言ってたけど、名前あるし、流暢に話してるし得体が知れなさすぎます!」

イライラが頂点に近くなり、声を荒げる。

「得体は知れてる。
ワタシはワタシね。我思うゆえに我あり。
知てるか?お嬢ちゃん。」
と楽しそうに小首を傾げる。


これは、完全に遊ばれている。


「私、急いでるんで、それじゃ。」
と言って、足早に廊下を通る。

「ハハ、昼飯なら奢てやる。
昨日の礼ね。」
そう言いながら、私についてくる。


「結構です!」と叫び廊下を早歩きする。
振り切りたいが意外にもこの男、足が速い。

「遠慮するな。」と言いながら
結局、食堂までついて来られてしまった。


「何食べたいか。なんでもいいね。」

「だから、結構ですって。
ていうか、もう関わらないでいただきたいんですが。」

「借りを返さないと、ワタシの寝覚め悪くなるね。」

どれだけご都合主義なのか。

ここで嫌だと言っても
通用しないことはだんだん分かってきた。

当たり障りなく終わりたい。

「‥分かりました。
でも、金輪際関わらないでくださいね。」

もう、こんなことはまっぴらだ。
私はただ平和に毎日を過ごしたいのだ。

「可愛げないと
誰にも相手にされなくなるよ。」

「余計なお世話です。」

本当に余計だ。

こうなったら、1番高いAランチにしてやる。

私も負けじとひと睨みして
それから、2人で中に入る。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ