短編
□気質。
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「あーあ。今頃団長は彼女とデートかー。」
22時ノージ街で今話題の人工庭園、芝生の上で寝転びながら、目の前のどでかいビルを眺め、ビールなど嗜みつつぼやいてみた。
周りはカップルまみれ。
膝枕だの肩を寄り添い合うだのもう空気は真っピンク。
なぜこんなところにいるのかというと
今夜、団長がかわいい彼女(なのかはわからないけど兎に角女)としっぽり夜景を楽しみながら 夜遊ぶという計画を小耳に挟んだからだ。
その夜景を臨んでいるであろうビルが今目の前にあるわけで。
なぜそれをわざわざ眺めてるのかというと
私は‥‥その‥
団長のことが
好きなわけで。
「うがぁぁっ!!!なんでこんなとこでこんなことしてるんだろ!あたしゃストーカーか!さみーわっ!!」
いきなり叫んだせいで、点在しているカップル達は一瞬私の方に視線を向ける。
それには気づかないふりをして
浮かんでくる虚しさをビールで流し込み、思い切って芝生に寝転んでみた。
「‥‥なにやってんだろ。」
本当になにをやっているんだろう。
こんなことしても団長は私のことなんて全然見てもいないのに。
「アラシ」
私の声を呼ぶ低い声。
聞き慣れたその声に少し驚く。
「‥フェイ。なんでこんなとこいるの」
彼はフェイタン。私の仕事仲間である。長いこと仕事を共にしたからか、ふざけたり、身も蓋もない会話をしたりするいい仲間である。
休日のせいか、いつもの黒装束ではなく黒のTシャツにジーンズというラフないでたちで私を見下ろしていた。
「それはこちの台詞ね。」
私の隣に腰を下ろし、芝生に転がっている私の飲みかけのビールを煽る。
「ま、大方団長のことで来たんだろうけどね。」
俺にはお見通しと言わんばかりにニヤッと笑い私の方を見る。
「っさいなぁ。どーせ私はストーカー気質まっしぐらですよ!気になってここまで来ちゃいましたよっ!でもロビーには怖くて入れないからこーんな遠くで見てるだけですよっ!!」
ヤケになりフェイタンが持っている私のビールを奪おうと飛びかかる。
が、 仕事上なまじ身体能力が高いフェイタンにかわせないわけなどなく。
「アラシお前酔いすぎね。何本飲んだか?」
「知るかっ!返せっ!」
とすったもんだ。
とその拍子に足がもつれて転んでしまった。
気づけばフェイタンは私の下敷きになっていた。
「‥ったたた。ごめん、フェイ大丈夫?」
「だからお前、酔いすぎね。
酔た勢いで押し倒すなんて、お前も結構大胆な奴ね。」
と言いながら私の下で体をくねらせる動作などしてみせる。
「ぷっ!なに言ってんだか。バッカみたい。」
「‥優しくしてね。」
「ひー!!似合わねぇっ!!」
うひゃひゃと笑いながらお互い体を起こした。
落ち着いた頃にさっきから思ってたことを聞いてみた。
「ねぇ、なんでここに居たの?買い物とか?」
フェイタンはビールに口をつけながら
「いや、気になるもんがあて、ちょとね。」
と茶を濁すようなことを言った。
「ふーん。まぁ、いっか。
フェイが来てくれてなんか気、まぎれたかも。」
ありがとね。と笑いかけると
フェイタンは目を逸らし何か言った気がした。
「ストーカー気質なのはおあいこてことね。」
風に紛れて聞こえなくて、
「なんて言ったの」
って聞いても教えてはくれなかった。