この空の向こう

□青い空
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街中を探しても。学校に行っても。どこにいても、もう皆はいない。
『待ってるから。私たちは』
やめて。待ってたって、私は帰れない。だから、だから――――
お願いだから、私を忘れて。

私の気分が悪くても、空は鬱陶しいほど晴れている。照りつける太陽が暑い。青い空は、見てるこっちが吸い込まれそうになる。
「おはよう、いちかちゃん!」
「あー···」
「あちゃー、まだ名前覚えてくれてない?葉月だよ!は・つ・き!」
「あー、うん」
ここに転校して2ヶ月。今だ友達と呼べるものは出来ていない。同じクラスの人の名前さえ忘れているくらいだ。
「暑いねー···。やんなっちゃうよ」
「···鳥は···自由でいいな」
空を飛ぶ鳥を見て、私は呟いた。葉月が顔をあげる。
「どうしてそう思うの?」
「空が飛べたら、どこへだって行ける」
「前の学校の友達に会いに行けるから?」
「·····」
言い当てられたことに少し驚き、言葉が詰まる。
「もうすぐ夏休みだよ。会いに行けば?」
「···交通費が···ない···」
「···ぷっ、あはははっ!なんか、いちかちゃんって結構天然?面白いね!」
「······」
前の学校の友達。みんな、"私たちはいつメンだ"って言ってたな。いつも四人ではしゃいでいた。急に転校が決まるまでは。あまりに急で、ちゃんと別れを告げられなかった。ただ一言、「待ってるから。私たちは」
と笑っていた。待たれていって、帰れないのに。もうあそこは、私の帰る場所じゃない。
「友達っていうのはね」
ふいに葉月が口を開いた。
「何年たっても変わらず話せる人の事だよ。未来の自分達なんて誰にも分からない。でも今の自分達が信頼しあえているなら、それは立派な絆だよ」
「···絆···」
「いちかちゃんの友達は、この空の向こうで待ってるよ。いちかちゃんが笑って会いに来てくれるのを」
「そうかな···」
「交通費は上乗せして返してくれるなら貸してあげるよ?」
葉月がニヤッと笑った。自然に、笑いが込み上げてきた。
「上乗せって···、あははっ、しっかりしてんのね」
「そりゃーもちろん!」
こんなに笑ったのは、2ヶ月ぶりだ。
「そうだね。じゃあ交通費借りて会いに行こうかな」
見上げれば、雲一つ無い空がある。この空の向こうで、大切ないつメンが待ってる。
―――夏休みまで、あと5日―――

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