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□月の光
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メンジャルは、主のテントから出てきた人影に気づいてそっと後を追った。
主にもしも従僕殿が一人で何処かに行こうとする事があれば阻止するように命じられている。
何をする訳でもなくぼんやり座りこんでいる辺り、今回は主の心配する事態ではないようだ。
空を見上げるその男を何となく見る。
こちらに背中を向けているため表情は窺う事が出来ないが、その背中はまるで迷子の子供のように頼り無げで、これがあの「怪物ラド」とはにわかには信じられないほどだ。
主は隠しているようだが、戦闘の最中に「アシュタル」と名を呼んでいた事を知っている。
前主イリシオス様の仇の男だが、現主のアリオテス様はこの男を頼りとしているし、この度の戦にこの男の力はなくてはならない。
俺はゲ−の剣、剣に私情は必要ない、主の決めた事に従うだけだ。

・・・それにしてもと思う「怪物ラド」の噂を聞いた時、どんな化け物じみた奴だろうと思ったものだが、実際は細身の優男だ。
これならイリシオス様の方がよほど怪物じみていただろう。
懐かしい前主の邪悪な笑い声が脳内にこだました。
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