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□Happy Birthday
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「アシュタル!アシュタル!起きてよ!」

アリオテスの声で目が覚めた。

「ゆ・・・夢か・・・」

夜が明けたばかりのまだ薄暗い部屋。
その角へと眼をやる、そこに鏡はない。
そもそも寝室に鏡は初めから置いていないのだから。
ベットの上に身体を起こし抱えた膝に額を押し付ける。

「大丈夫か?凄く魘されていたぜ」

アリオテスがおろおろと声をかけてくる。
情けない所を弟子に見せてしまったと少し落ち込む。

「そうだ!姉上が悪い夢は人に話した方がいいと言ってた、俺でよければ話し聞くぜ」

アリオテスの気遣いに小さく笑う、情けない所をみられたのだ今更取り繕うだけ無駄だろう。

「アリオテスが、大人になっていて俺よりでかくなってた・・・」

「えっ!それが悪夢なの?良い夢だろ!」

いつも俺がチビ扱いしてるからか、夢の話しでも嬉しそうなアリオテス。

「ルミアも大人なって、凛とした美女になってたな」

「だから良い夢だろ?」

それであんなに魘されるのか?とアリオテスが理解出来ないと言う顔をする。

「それから・・・俺はいまだに・・・親父が恐いらしい」

「アシュタル・・・」

アリオテスが言葉に困っているのが分かる、イリシオスは酷い男だったが良い父親だった、信じ難い事だが素直で真っ直ぐなアリオテス達を見れば分かる。
クソがつくほど最悪な俺の親父とは違う。

「幼い頃、俺にとって親父は恐怖の対象だった・・・正直、親父の事は殴られるか、蹴られるか、睨まれてた記憶しかない・・・戦死してせいせいしていたのだがな・・・」

アリオテスが息を呑む、彼の父親はそんな事をした事は無かったのだろうし、実の父親の死を「せいせいした」と片付ける俺の考えが理解出来ないに違いない。

「次に親父が帰って来たら必ず殺すと思っていたが、先に戦死されたせいで克服する機会が失われた・・・そのせいだろ俺の中にはいまだに親父を恐れている幼い子供がいるようだ」

こんな話されてアリオテスも気分が悪いだろう、俺も喋り過ぎだ。

「・・・ああ、そういえば今日は、親父の命日で俺の誕生日だったな・・・」

亡骸は現地で埋葬したとかで家に戻ってきたのは遺髪と剣だけ、正直父親の死の実感はなかった。
遺髪を握りしめ、泣き崩れる母親を見ながら、俺の誕生日なんて忘れられない日に死ぬことはないだろうとぼんやりと思っていた。

「アシュタル!今なんて言った!」

なぜか驚いた表情のアリオテス。

「俺の親父の命日」

そんなに驚く事か?もう十数年も昔の事だ。

「その後だよ!」

なぜそんなに憤る?

「俺の誕生日だがそれがどうした?」

「俺はアシュタルの誕生日なんて聞いてない!何で言ってくれないのさ!」

子供らしく頬を膨らませてプンプンと怒るアリオテス。

「俺の誕生日なんか聞いてどうする?」

「これだから大人は!誕生日は大事な日なんだよ!」

地団駄を踏むアリオテス、俺には子供の理屈は分からない。

「誕生日は、アシュタルが今ここにいる事を感謝する日だ!」

力説するアリオテスをポカンと見る。
俺がいる事を感謝する?

「怪物と謗られた俺をか?」

アリオテスが俺に抱きつく。

「関係ないよ!アシュタルが生き抜いてくれた事と未来の事だけ考えればいい!だから・・・お祝いさせてよ」

俺はお前の父親の仇だろう?とは口に出来なかった、変わりに別の事を口にする。

「俺は・・・両親にさえ誕生日を祝って貰った事などない」

アリオテスの腕の力が強くなる。
俺にはアリオテスの言っている意味が分からない・・・だが悪い気はしない。

「好きにしろ」

「任せてよ!最高に楽しい誕生日にしてやるからな!」

なぜか自分が楽しそうなアリオテス。

「・・・お前は、案外いい男になるかもな」

「なんだよ、今頃気がついたのかよ将来有望だぜ!」

射し込む朝日のもとで、力強く笑うアリオテスはとても頼もしく見えた。

「・・・いつまでもそのままでいてくれよ」

わしわしと頭を撫でる、願わくは、いつまでも真っ直ぐに真っ当に生きてくれる事を祈る。

「アシュタルそれどういう意味だよ!」

子供扱いされたとおそらく誤解したアリオテスが膨れるが、訂正するのは照れ臭いし何よりめんどうだ。

「お前は俺よりでかくなるの禁止な」

ニヤリと笑いかける。
我ながら素直じゃない。

「絶対にアシュタルよりでかくなってやる!」

バタバタと部屋を出ていくアリオテス。
きっとアリオテスは俺よりも器の大きな男になるだろう、そしていつか・・・
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