本棚2

□再会
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人間は良くも悪くも慣れる生き物だ。
着なれない異国の服に、肌触りが悪いだの、動きにくいだのと文句を言っていた師弟だったが、もともと適応性の高い彼らはいつの間にか異国の服にすっかり慣れてしまった。
そして、本人達が気にしていなければ、回りにいる者たちも違和感を感じなくなる。
だからうっかり忘れていた、ただそれだけの事。


船が無事にケルドの港に着いたとたん、ハーツ・オブ・クイーンとグラン・ファランクスの面々に囲まれてしまった。

「全く、全員で押し掛けるなんて何を考えているのかしら?警備が手薄になった所を襲われたらどうするつもり?」

「全く、困った奴等だ」

ルドヴィカもリヴェータも苦笑しながらも嬉しそうに出迎える人々に応えて手を振っている。

「あっ!リラお姉様!」

「本当だ!姉上〜」

群衆の中にリラの姿を見つけてはしゃぐルミアとアリオテス。
そんな姿を微笑ましく眺めるアシュタルとセリアル。
彼らにしては珍しく久しぶりの故郷と和やかな雰囲気に気が抜けていたのかも知れない。
だが、平和な空気は突然引き裂かれ、慌てて逃げ出す人々、人混みが左右に別れ道が出来る。
その道をまるで闘牛のように突進してくるギルベイン、その光景に怪物と呼ばれるアシュタル・ラドも呆気に取られ、反応出来なかった。
器用にも走りながら外したのだろう、ギルベインのマントにあっという間にくるまれるアシュタル。
ギルベインは勢いそのままに、アシュタルをまるで荷物のように肩に担ぎ連れ去った。

「・・・服を着替えさせておけばよかったかしら?」

「いや、動きにくいからと着崩したアシュタルが悪い」

事情を察した面々は苦笑いを浮かべながら、生温い目で彼らを見送った。




「いきなり何するんだお前は!」

そのまま、ギルベインの私室に連れ込まれたアシュタルが喚く。

「お前こそ、何を考えているんだ!こんな破廉恥きわまりない格好で外を出歩くなど!羞恥心がないのか!」

怒りを露にするギルベインを目にして、アシュタルがうんざりした目線を向ける。

「俺だって羞恥心くらいあるさ、そこまで言われるほど酷くないだろう?大陸じゃ普通だったぞ」

多少、着崩してはいるがそこまで酷い格好だとは思っていないアシュタル。
その様子に盛大なため息をつくギルベイン。

「自覚がないと言うことは何とも罪深い事だな」

アシュタルをベットに押し倒すギルベイン。

「お前の無自覚な行動にどれだけの男が劣情を駆り立てられていると思っている?我が領地の風紀を乱した罰だ、しばらくこの部屋から一歩も外へは出さん覚悟しろよ」

「・・・・素直に寂しかったとか言えないのか?安心しろ浮気なんてしてねぇよ」

アシュタルが、ギルベインの首に腕を回して甘えるようにキスを強請る。
もちろん、ギルベインがその誘いを断る事はなかった。
久しぶりに抱き締めた恋人からは海と太陽の香りがした。
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