本棚2
□ゴシップ
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「お待たせしました」
エルダーの待つ車の窓を軽くノックする。
「ほう、制服姿とはまた印象が変わるな。悪くない」
そんな事を言って商品を受け取ろうとしないエルダーの考えが分からず、途方に暮れるアシュタル。
その時、何故か急にエルダーがサングラスを外した。
その途端、背後から聞こえた黄色い悲鳴とざわつく人の気配にアシュタルは思わずたじろぐ。
「助手席に乗ってくれ、話がある」
有無を言わせない迫力と背後の気配に、思わずアシュタルは素直に言われた通りに車に乗り込んだ。
「悪いな、もうしばらくそれを持っていてくれ、少しとはずぞ」
アシュタルにシートベルトをするように目線だけで促したエルダーは、返事を待たずにアクセルを踏み込んだ。
「うわぁ!」
結論だけ言うと、何事もなく無事に目的地についたが、エルダーのドライビングテクニックは、間違いなく良い子も悪い子も真似しちゃ駄目な方だった。
何処かのマンションの地下駐車場に車を停めると、さっさと車の外に出るエルダー。
状況を呑み込めずに戸惑うアシュタルを一瞥する。
「どうした?腰が抜けて立てないのなら運んでやるぞ?」
からかうような言い方に腹が立つ。
「平気に決まってるだろ!早く商品を受け取れよ!」
乱暴に車のドアを閉めるアシュタル。
その少し先を歩くエルダーは相変わらず商品を受け取ろうとせず、アシュタルがついてくるのが当たり前のように後ろを振り返りもしない、その態度に苛立ちながらも大人しくついていった。
駐車場のエレベーターからマンションの部屋へつくまで、エルダーは一言も喋らなかった。
最初はその態度に苛立っていたアシュタルだが次第に不安になってくる。
酔って彼に迷惑をかけたのは、間違いないのだから。
促されるままに歩きながら、無意識のうちに紙袋をギュット抱きしめた。
「おいおい、中身を潰さないでくれよ?俺の昼飯なんだからな」
ハッとして顔をあげるアシュタルに、エルダーが笑いかける。
そのごく自然な笑みに思わずドキっとしたアシュタルが、慌てて目をそらした。
ふたたび訪れたエルダーの部屋、今度はリビングに案内された。
「適当にかけてくれ」
リビングの入口でようやく商品を受け取ったエルダーに進められるままにソファーに腰かける。
「・・・・話って何ですか?」
恐る恐るアシュタルが口を開く。
「まあ、これの事だがな」
向かいに座ったエルダーが、テーブルの上に置いたのはアシュタルも読んでいたあの週刊誌だった。
「あの、すみません!俺が酔い潰れたせいでこんな事に・・・」
いたたまれなさに身を縮こまらせるアシュタル。
「気にする事はない、わざとそうしたのだからな」
「えっ?」
「わざと写真を撮らせた、撮られたくないなら今みたいに駐車場から入れば良いだけだ」
言われてやっと気がつくアシュタル。
「何でそんな事を!」
「一目惚れ、と言えば信じるか?お前を俺のものにしたくなった」
今までの俺の後悔は何だったんだと怒りに震えるアシュタルに、さらりと告げるエルダー。
「はぁ?」
「宣戦布告と言った所だ、顔が映ってなくてもお前を知る者なら、これが誰か分かるハズだからな」
確かにセリアルは気がつきかけていた、知られるのは時間の問題だろう。
「恋敵がどれくらいいるか分からないからな、先手を打たせてもらった」
そう言う彼はまるでイタズラが、成功した子供のように笑った。
「先手って・・・俺がそんなにモテる訳ないだろう」
もはやどうすれば良いのか分からず呆然とするアシュタル。
「安心しろ、これ以上話が広がる事はない。勿論お前がマスコミに追われる事もない・・・俺と付き合うならな」
「お前!ズルいぞ!」
「どうする?決めるのはお前だ」
アシュタルに拒む理由はなかった。
「・・・お前が、俺を満足させられるならな」
「安心しろ後悔はさせん。他の男と比べるだけ無駄だと教えてやろう」