本棚2
□Wallflower
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リヴェータの提案で開かれたパーティーは、流石にイレ家が主催するだけあって盛大なものだった。
半ば強制的に参加させられたアシュタルは、酒の類いを口にしないようにルミアに厳命されたこともあり、手持無沙汰に壁にもたれながら会場を眺めていた。
いつの間にかダンスホールと化した会場では、アリオテスとルミアが踊っていた。
優雅と言うよりも可愛らしさの方が際立つ二人を微笑ましく思うと共に、自分と彼らとの育ちの違いを痛感する。
何だかんだ言いながら、そつなくルミアをリードしているアリオテスを見ていると、あんな父親でも子供の教育はしっかりしていたのだろうと思う。
窓ガラスに映る自分の姿を見て無意識にため息をつく。
ルミアとアリオテスが頑張ってコーディネートしてくれたおかげで、外見はそれなりに整っているが、とんだ見掛けだおしだ。
学も教養もない、貴族の嗜みだというダンスの一つも出来やしない。
何となく気分が沈んできたアシュタルは、気分を変えようとバルコニーへと出た。
月明かりに照らされたバルコニーの手摺にもたれる、涼しい風が心地好かった。
「パーティーで、踊る相手がいない者の事を壁の花と言うそうだな。まさしく今のお前の事だなアシュタル・ラド」
「エルダー!お前!」
いつの間にか後ろに立っていた男に驚くアシュタル。
慌てて会場の方へと視線を向けるが、どうやら誰も気が付いていないようだ。
警備は何してるんだと憤る反面、騒ぎになっていない事に安堵する。
こんな場所にエルダーが姿を顕せば大混乱になることは間違いないだろう。
「貴様!何をしに来た!さっさと帰れ」
アシュタルが、小声でエルダーに詰め寄る。
「踊れないなら俺が教えてやろう」
「はぁ?何でそうなる?放せ!」
エルダーに手をとられ、背中に手を添えられる。
「お前ダンスとか出来るのか?」
「もちろん、この俺に出来ない事はない」
一々偉そうな態度に苛立つが、軽く添えられているようにしか見えないエルダーの手から何故か逃げ出す事が出来ない。
「そう強張らずに俺に身を委ねろ、ワルツは男のリードで踊るものだ」
「俺を女扱いする気か?」
少しムッとして睨みつけるがもちろんそんな事に動じるような古の剣聖王ではない。
「今更何を?お前は俺の女だろう?」
「・・・・馬鹿」
顔を隠すように、エルダーの肩に額をつけるアシュタル。
当然、ダンスをする時の姿勢ではなかったがエルダーは黙って微笑んだ。
「う〜悔しいけど絵になるな」
「二人とも上手ね」
月光の下で踊る二人はまるで絵画のように美しかった。
そんな光景をアリオテスとルミアが、微笑ましく見ていた事をアシュタルは気が付かなかった。
「珍しいわね、アシュタルが私達の視線に気が付かないなんて」
「そうだね、エルダーは気づいてるのに・・・あのドヤ顔!なんか腹立つ!」