本棚2

□ジンクス
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初めてアシュタルに告白した時、アシュタルはビックリしたような目で俺を見た後で、逃げるようにそっと視線を外した。

「アシュタル、逃げないで!俺は本気だよ!」

アシュタルの中に俺に対する嫌悪が無いことに安堵する。
ふざけるなと殴られ、罵倒されるのも覚悟の上での告白だった。
アシュタルが目を反らしたのは困惑からで、俺を拒否している訳ではない。

「俺はアシュタルが好きだ!愛している!」

だから、嘘や冗談じゃない俺の本当の気持ちを知って欲しくて言い募る。
思わず掴んでしまった手を振り払われ無かったことに、希望が見えた気がした。

「お前の気持ちは分かった・・・だが、それを受け入れる事は・・・俺には出来ない」

アシュタルとは思えない程、消え入るような小さな声。

「どうして!」

思わず間髪いれずに叫ぶ。
アシュタルの中に、迷いが見えたような気がした。
俺を明確に拒絶出来ない・・・アシュタルの中にも俺と同じ気持ちが少しは存在するのだと解釈するのは都合が良すぎるだろうか?

「駄目なものは駄目だ!こんなくだらない話付き合ってられるかっ!」

急に怒鳴りだすアシュタル。
自分の感情をもて余して癇癪をおこした子供のようだ。
だから、きっと気づいていないだろう。

「アシュタル、そんな顔で言っても説得力ないぜ」

アシュタルの滑らかな頬に触れて、濡れた指先を見せてやる。

「うるせえ!こんな年下のチビに誰が・・・」

必死に俺を突き放す為に一般的な理由を探しているようなアシュタルの態度が気になった。
多分、アシュタルの本心は他にある。

「アシュタルが気にしてるのはそんな事じゃないだろう?何が不安なの?俺はアシュタルが好きだ、この気持ちは嘘じゃないよ?」

アシュタルは、俺よりも年上だ。
こんなに綺麗な人なんだから・・・考えたくはないけど恋愛経験は豊富だろう。
だからこそ、駆け引きに慎重になっているのだろうか?

「・・・アリオテス・・・ジンクスって知ってるか?」

アシュタルはしばし逡巡したあと、重い口を開いた。

「ジンクス?ヘーアシュタルでも縁起がどうこう言うの信じるんだ、意外だぜ」

アシュタルが口を開くのを辛抱強く待っていたアリオテスは、想像していなかった言葉に肩すかしを食らった気分になる。

「そうかもな・・・俺の場合は悪い方の意味でだ・・・・俺を抱いた男は皆・・・死んだよ」

絞り出すような声で言うアシュタル。

「えっ!・・・」

思いがけない言葉に一瞬目を見開くアリオテス。

「俺が若い頃の・・・傭兵時代の話だ」

「それは・・・そんなのアシュタルのせいじゃないよ!戦場だったんなら尚更!」

思いがけないアシュタルの告白に、アリオテスは、沸き上がる嫉妬を必死に押さえつけていい募る。

「・・・その中に・・・イリシオスが・・・お前の父親が含まれていてもそう言えるか?」

絶望の涙に濡れた蒼い瞳がアリオテスを見詰める。
アリオテスを見ているようで、別の何処かを見ているような虚ろな瞳で。
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