本棚2
□好きだから
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「良かったな師匠!顔の傷が綺麗に治って!」
アリオテスが嬉しそうに笑う。
「女じゃあるまいし、顔に傷がついたくらい気にしねえよ」
アリオテスが、何故そんなに嬉しそうなのかがアシュタルには分からない。
実際、服に隠れているがアシュタルの身体には大小様々な傷痕がある。
時間がたてば薄れるものもあるだろうが、恐らく一生残る事になるだろう傷痕もいくつかある。
エルダーに斬られた顔の傷は消えたが、腹部の傷は恐らく一生残るだろう。
今更、傷の一つや二つで気に病むようなアシュタルではない、それはアリオテスも知っている筈だ。
「・・・うん、それでも本当にアシュタルの綺麗な顔に傷が残らなくて良かった」
アリオテスの手が労るかのように優しく傷のあった場所を撫でる。
「・・・・なるほどな、お前が好きなのは俺の顔だけで、醜い傷が残ったらもう興味はないと言うことか」
アリオテスの手を邪険に振り払う。別に本心で言った訳ではない。
ちょっとした意趣返しのつもりだったのだが・・・
「ごめんアシュタル・・・アシュタルを傷つける気はなかったんだ・・・俺が顔の傷が残らなくて良かったと言ったのは、顔に傷が残ったらアシュタルはきっとその傷を見るたびにアイツの事を思い出すだろ?嫌な事も一緒に・・・きっと忘れられない・・・だから・・・」
「もういいから止めろ・・・悪かったな、俺が大人気なかった」
俺を見詰めるアリオテスの真摯な瞳に折れた。これじゃ俺がいじめているみたいだ。
「・・・本当に馬鹿なチビだな・・・俺が傷痕くらいでいちいち昔の事を思い出すかよ」
アリオテスの頭を遠慮なく撫でて髪をかきみだす。
「何するんだよ師匠!」
アリオテスが慌てて俺の手から逃げ出そうとするのを掴まえる。
「半人前の弟子に心配されるほど俺は弱くねえよ・・・でもまあ、心配かけたみたいだからな、一応礼は言っとく」
ニヤリと笑ってアリオテスの頬にわざと音をたてて口づける。
「アシュタルからキス!俺、もう顔洗わない!」
「大袈裟な奴だな」