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□ゆっくり急げ
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傭兵時代「怪物ラド」と恐れられていた頃から、その強さ故に弟子入りを志願してくる者達は少なからず存在していた。
自分の剣は、人に教えるようなものではないし、教えるなんて柄でもない。
何よりも面倒くさいとことごとく断ってきた。
そんな俺だが、アリオテスの熱意とその発想の面白さにうっかり弟子入りを認めてしまった。
後悔する事も多々あったが、アリオテスの成長には目を見張るものがあった。
自分でも雑だと思う教え方でも確実に成長している姿を見るのは正直楽しい。
実戦を経験した事で飛躍的に強くなりもう素手では相手が出来ないほどだ。
だが、まだまだ剣を抜く程ではない。

「俺の相手をするには、1000年早いけどな」

手にした木の枝で叩く。

「何だよそれ、全然見えなかった!」

嬉々として食らいついてくるアリオテスの熱意に、ついのせられてほんの少しだけ本気になる。

アリオテスが強くなりたい理由は、父親の仇をとるため。
その憎悪が強くなる原動力だ。
正直、あのイリシオスにこんなに慕っている子供がいることは意外だった。
俺達とは、全く会話の成り立たない相手だったが、子供にはよい父親だったようだ、想像もつかないが。
・・・だからこそ、不憫に思う事もある。
まだ、幼さの残る子供が父親の罪を背負い、ゲー家の雪辱を注ぐために必死に剣をふるう。
その姿が時として、生き急いでいるようにさえ見える・・・
無理して大人にならなくても良いのだ、ゆっくり大人になればいい・・・もっと大人を頼ればどうだと言ってやりたいが、俺にはそれを言う資格はないだろう。


アシュタルの罪悪感につけこむ形で弟子にしてもらったものの、側にいるとアシュタルの強さが嫌でもよくわかる。
この人を倒すなど、無謀以外ないだろう。
誰よりも強くて美しい人。

「それでも、必ず越えてみせる!」

そうしたら、アシュタルも俺を一人の男として認めてくれるだろう。
そのためにも、一刻でも早く強くなりたい、大人になりたいと思う。
だからこそ、もっと剣の稽古をしてほしいのだが・・・なかなか思うようにはいかないものだ。

「アシュタルは天然だからな・・・俺が守ってやらないと!」

露店で陶器を売ってる時に、邪な目で見られている事にも気づいていない。
ルミアでさえ気づいているというのに・・・全く自覚がないにも程がある

「そこが可愛いんだけどな」

だが、今のままでは告白しても一笑にふされるだけだ、アシュタルよりも強く彼を護れるような男になりたい。

強くなりたい目的がいつの間にか変わってしまった事をきっとアシュタルは気づきもしていないだろう。
その事を知ったらアシュタルは一体どんな顔をするだろう?

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