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□怪物と犬
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帝国を退け、戦乱は収束した。
事後処理はまだまだあるものの、リヴェ−タとルドヴィカの計らいもあり、まだ子供のアリオテスと重傷を負ったリラはひとまずゲ−の領地へと戻ることとなった。
ゲ−の領地へ行く事に難色を示したアシュタルだったが、アリオテスに懇願され、リラを心配したルミアに押しきられる形で護衛として同行する事となった。
しばらく覆面が手放せないのかとため息をつくアシュタルと対象的にアリオテスは随分とはしゃいでいた。
準備があるからと先行するメンジャル達と分かれ、怪我人がいる事もありゆっくりとした旅程で領地を目指した。
リラを気遣いながら、今まででもっとものんびりした旅。
平穏を取り戻し活気を取り戻しつつある町の様子を眺めながら、アシュタルはぼんやりと考え込む事が増えていた。
その様子に不安を覚えたアリオテスが、必要以上にまとわりつき、怒らせるといった事を繰り返しながら旅は順調に進んだ。
「アシュタルが帰ってこない!?」
無事に領地へとつき、落ち着いたある日、ゲ−の当主として執務に励んでいたアリオテスの元にルミアが訪れたのはもうすぐ日がくれる刻限だった。
陶芸用の土を買いに行くと街に行ったのは昼過ぎだったらしい。
「アシュタルなら心配はいらないとは思うけど・・・」
賊に遅れをとるアシュタルではないが、目を放すとそのままいなくなる危うさがアシュタルには常につきまとっている。
ルミアを置いて何処かに行くことはない大丈夫だとその考えを振り払い、ルミアには屋敷にいるように告げ、アリオテスはアシュタルを探しに屋敷を出た。
「何で俺についてくるんだ?他をあたれ俺についてきてもろくな事にならないぞ」
探し人は案外簡単に見つかった。
屋敷からさほど離れていない木の下で子犬に真面目な顔で話しかけていたのだ。
「えさもやってないのに何で俺についてくるんだ?さっきの親子とかの方が絶対いいだろう」
キャンキャンと吠える子犬。
アリオテスにはそれが『貴方じゃなきゃ嫌です』と言っているように聞こえた。
「俺は、腹を空かせている子犬にパンの一片もやれないうえに弟子の家に居候している甲斐性なしだぞ?他をあたれじゃあな」
歩き出すアシュタルの後を短い足を必死に動かして、キャンキャン吠えながらついてくる子犬。
振り切って屋敷の中に入る事は造作もないだろうに、アシュタルは足を止め、子犬はその足にじゃれつく。
「アシュタル!何してるの?」
ほっとくと永遠と同じ事をしていそうな師匠に、声をかける。
「アリオテス!お前こそ何しにきた」
「もう日が暮れるよ、ルミアが心配してた・・・その子犬どうしたの?」
今気がついたふりして子犬を見る。
「ついて来たんだよ、街からずっと、多分野良犬なんだろうな」
もしかして街からずっとさっきのやり取りをしていたのか?
そう思うと思わず笑いだしそうになるのを必死に堪える。
「飼いたいの?」
「・・・俺に犬なんて飼う余裕なんてねえよ」
「ふ〜ん、じゃあ俺が飼うよ、ちょうど番犬が欲しかったんだ」
ひょいと子犬を抱き上げるアリオテス。
「こいつ足でかいな〜将来大きくなるよ絶対」
「・・・そうだな、番犬にはちょうどいいだろう」
ほっとしたような笑顔を見せるアシュタルにアリオテスも笑う。
大事なものをたくさん失ってきた人だから、一つでも大事に思えるものが増えたらいいと思う。
それで、アシュタルをひき止める事が出来るならと思うアリオテスだった。
数日後。
屋敷の近くで借りた陶芸用の工房で一人、壺作りに勤しむアシュタル。
そこへ
「師匠〜今日こそ剣を教えてくれよ!」
「キャンキャン」
バタバタと走り回り、アシュタルに構えとまとわりつき騒ぐ一人と一匹。
「煩い!余計な事をしたか?・・・でも悪くない」