本棚

□Happy Birthday
1ページ/2ページ

息苦しさに眼を覚ます、腹の上に何が乗っている圧迫感に眼を向ければ、そこには三歳ぐらいの子供がいた。

爽やかな朝日のさす明るい部屋で見間違えるはずもなく、驚きのあまりに声もでないまま、子供と見詰め合う。
子供らしいふっくらとした頬、柔かそうな黒い髪、つぶらな瞳は特徴的な色をしていた。

「アリオテス?」

随分と幼いが子供の特徴は自称一番弟子によく似ていた。

「ルミア!チビの奴またアシュタルの所にいたぞ!」

遠慮なく部屋のドアが開き、廊下からアリオテスの声が聞こえる、そちらを見て背筋が凍った。

「チビ!勝手にアシュタルの部屋に入ったらダメだと言っているだろう!」

無遠慮に部屋に入ってきた男は、俺の上から子供を軽々と抱き上げた、巨躯と言っても差し支えのない逞しい体格の男を見上げ唖然と呟く。

「イリシオス・・・」

思わずこぼれ落ちたのは、俺が殺した男の名前。

「アシュタル〜また俺を父上と間違えてるのか?」

精悍な顔をしかめる男、そう言えば俺の知るイリシオスよりも随分と若い青年だ。
ベットから降りて青年をまじまじと見る、視線が自然に上を向いている事に気づいて思わず叫んだ。

「嘘だろ!アリオテスが俺よりでかい!?」

「アシュタルまた寝惚けてる」

ルミアの声にそちらを見れば、ミツィオラによく似た美女があきれたように俺を見ていた。

「ルミア、まあそう言ってやるな、昨夜の酒がまだ抜けてないんだろうよ、下戸なんだから止めておけと言っても聞かんからな」

いつも通りのセリアルに安心して、ようやく、落ち着いた。
これは夢だ、少し未来の。
立派に成長して大人になった二人はそれぞれの親の面影を宿していた。
特にアリオテスは・・・全然似てない親子だと思っていたがやはり血は争えないと言うところか。
ぐずりだした子供をあやす三人を少し離れた場所から眺めていたが、ふと部屋の角にある鏡が目に入った。
俺は今どんな顔をしているのだろう?
おっさんになった自分の顔を見たいような見たくないような気もするが、好奇心に負けて鏡を覗きこみ息を呑む。
そこに映るのは、傷だらけで顔色の悪い痩せた子供・・・幼い頃の自分だった。

声もでず立ち尽くしていると後ろに立つ大きな影。
振り返った真っ暗な部屋の中、いつの間にそこにいたのか、見上げるほどに大きな男が立っていた。
顔は見えなかった、まるで塗りつぶされたように、だが左目だけは爛々と輝いている。
その大きな拳が自分に振りおろされるのを避ける事も出来ずに、ただ悲鳴をあげ小さな手で頭を覆う事しか出来なかった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ