珈琲と悪魔
□湯気
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今日も彼女は、独りに怯えながら私が起きるのを待っている。
目の下の隈はいつまで経っても消えないで、逆に濃くなっていくばかり。
ほら、今日も。
「...あ」
「おはよ〜」
「...ん」
「お腹空いた〜?」
「......ん」
「はーい。じゃ、ご飯作るから待っててね〜」
「...ん」
寝起き特有の掠れた声で、素っ気なさそうな、でもちゃんとした返事が返ってくる。
私以外の人から見たら、聞こえないなんて怒るだろうけど、私はそんな事は微塵も思わない。
掠れているから聞き取りづらいのは、当たり前だ。
パンを焼こうとしたら、さっきまでソファーに座っていたはずの彼女が、私の袖を可愛らしく引っ張っていた。
「どした〜?」
「...ごはん、何?」
「今日は昨日買ってきた胡桃パンだけど〜、嫌だった?」
「ううん、違うの。...喉、渇いたから」
「ん〜?...水ー?お茶ー?」
「...お茶がいい」
「ちょっと待ってね〜...。冷たい方がいい?」
「...ん。どっちでもいい...かな」
「りょーかい」
朝ご飯はパン。彼女はお茶がいいと言う。
冷蔵庫から麦茶を取り出す。昨日入れたばかりだったが、1日も経てば充分に冷えるようだ。
それを小さめのコップに注いで、彼女に手渡す。
彼女がコップに口付けて、冷えた麦茶が口内に注がれて、それが喉を通るまでが、1つの絵みたいだった。
私はその様子を横目で見ながら、トースターに4つの胡桃パンを並べて、後はトースターに任せて、彼女が麦茶を飲み干すまでずっと私は、彼女を見ていた。
トースターが焼き上がりを知らせて、彼女は少し驚いていたが、匂いで分かったのだろう。
「...早く食べよ」
「はいはーい」
彼女の瞳が緩く弧を描いて、私を急かした。