人は見かけによらず

□見た目は不良、中身は―――
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黒地の髪に出来る限り染めた赤色。両耳に開いたピアス。誰一人として寄せ付けないオーラ。彼女の第一印象は、『不良』だった。
これまでに受けた生徒指導は数知れず、本人も疲れるほどの反省文を書かされている。生徒指導の先生が変わってからは1枚も書いていないが。だったら反省しているフリをしてでも髪色を直してくるべきだ。それでも彼女は、面倒臭いし毎日疲れているという言い訳にならない言い訳で、髪は染め直さない。
毎日面倒事を押し付ける、それが謡を疲れさせる、だから髪色を直す気もなくなると、数週間前に話は全く聞いていないであろう猫に愚痴を呟いていた。


昼休みの始まり。購買に向かう為に近道として職員室前を通ったのが間違いだったのか。やはり教員は皆、謡のその奇抜な髪色に目を付けて声をかける。

「黒革」
「はい?」
「お前はいつになったら髪を染めるんだ」
「…気が向いたら、ですかね」
「お前、それが許されると思っているのか」
「許されると思っているから言ってるんですけど」
「お前…!」
「まあまあ霜川先生、カリカリしてても解決しませんって」
「土田先生…」
「黒革お前、次の週までに髪染め直さなかったら停学な」
「…まあ、なんなら今日から停学でもいいですけど」
「あー……分かった。すみません霜川先生、相談室開けておいてもらっても大丈夫ですか?」
「別に構いませんけど…」
「黒革来い、……ちょっと愚痴ろうぜ」
「…」

謡の学校生活で唯一優しく接してくれる学年主任の先生、土田晃之先生。器の広さは校内一、指導の厳しさは校内一、好感度は校内一。毎日のように生徒指導を受けている謡は校内一の問題児。一時期2人で『ザ・校内一』なんてダサいコンビ名を付けられたことがあったらしい。謡の愚痴先が話を聞いてくれなくても傍に居てくれる猫なら、土田先生の愚痴先は、校内一の問題児になってしまっている謡だ。土田先生の指導に怖気付くこともなく、懲りずに生徒指導を受ける謡に半分呆れ、半分謡の考えに共感していた。

「んで、黒革。停学処分でもいいって言ったけど、お前実際のところどうなんだ?」
「…バイトが長く出来るので」
「……お前、頭の中は金か猫かゲームしかねぇのか?」
「好きなものなので」
「…まあ、分からなくもないけどよ。……ていうかあの先生も懲りねぇな、黒革に何言ったって本人に響かねぇっての」

褒められてるのか貶されているのか。きっと土田先生にとっては褒める類に属し、他の先生にとっては貶す類に属すのだろう。

「…あの、昼休み終わるのでいいですか」
「…お前今日バイトは?」
「あー…早退しないと入れない時間帯から入ってます」
「はぁ……気をつけろよ」
「はい」

失礼しました、と呟きながら相談室を後にした。




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