第一章
□月の影に
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月読様に出逢ってから早いもので、3ヶ月が経っていた。
相変わらず、他の神様と違ってクールな月読様は、私生活に干渉せず、遠くで見ていて、私がたまに困っていると、手を貸すといったくらいの関わり様だった。
一方の月人は、以前にも増して話しかけてくるようになった。まるで月読命に負けないよう、対抗するかのように。
「月人、最近何かあった?」
「何かって?」
「いつにも増して話しかけてくるし、気にかけてくれるから。」
「幼馴染みの男子は俺しか居ないしさ。もう少しハルも、俺を頼ってくれたっていいのに笑」
「自分から言う…?苦笑」
「だってさ…あまり言いたくはないけど、月読命と仲が良いじゃん。寂しいんだよな…。」
「月人…。」
「まあ、気にしなくていいぞ!そんなんで月読命と関わるな、なんて言わないからさ!俺はそこまで器の小さい男じゃないから。」
「ありがとう。分かってるよ、それくらい。月人は心が広いからね!」
「そうだよ!今分かったの?」
「せっかく褒めたのに、撤回するよ。」
「あ、ごめん。」
と、月人は言っていたものの…やっぱり心のどこかでは気にしているんじゃないかって思って、それ以降、私が気に病みそうだった。
「ハルちゃん、こんにちは!」
「あ、天照様…!」
「最近元気が無いわね?恋の悩み?」
「こ、恋だなんて!」
「でも…私にはそう見えるわ。ちなみにハルちゃんは、弟と月人君のどちらが好きなの?」
「天照様、それは…。」
「言いづらいのは分かるけど、いずれはどちらか一方を選ばないといけない。まあ、このふたりではなく、別の者なら話は違ってくるけど、今のハルちゃんには別のひとと付き合うなんてことは考えられない筈。ならば、どちらが好きなのか教えて欲しいわね。大切な弟のこともあるから…。姉として、やはりそこは気になるのよ。分かってね、この気持ち。」
「はい、お気持ちはよく分かっています。でも今は、私にもよく分からないのです。どちらが好きなのか。ですから、どちらかへの想いが固まるまで、待って頂けないでしょうか…?」
「良いわよ!その代わり、気持ちが固まったらすぐ報告すること。」
「はい。」
「じゃあ、私は戻るわね。」
「高天原にですか?」
「ええ、そうよ!あ、そうそう!家に帰ったら、弟が居るから話し相手になってあげてね〜!じゃあ!」
「えっ!?あ、ちょっと…!」
(嘘でしょ…?いつからそんなことになってるんですか!?)
そんなことを言われたことで、まともに授業に集中出来ないまま、放課後になった。
「今日は塾じゃないよな?」
「うん。家の用事があるから早く帰らないと。」
「そうなんだ。」
「ねえ、月人…」
「ん?」
「あ…いや。何でもない。じゃあね。」
「お、おう。んじゃ。」
私は言い出せなかった。やっぱり気になってるんじゃないか、なんて言えるわけがなかった。今の自分の気持ちの中で、もやもやする何かを抱えるようにして家に帰った。
「おかえり。」
「月読様…。」
「何かあったのか?」
「それ、天照様にも聞かれました。」
「姉上もか…笑やはり考えていることが似ている。」
「あの、ところで。どうして家に居るんですか?」
「姉上に追い出されたのだよ。高天原を引っ掻き回すな、と言われ。」
「それで…?」
「行く宛が無いと言ったら、ハルの家に行けば大国主命も居るから何とかなるだろうって。」
「天照様ったら…!」
「姉上を怒らないで…汗自由奔放な方だから。」
「仕方が無いですね。神様をわざわざ追い出す訳にもいきませんから。でも、私の家に居候しているなんて、月人には絶対知られないでくださいね?」
「どうして?」
「それは…月人は、月読様の話をすると機嫌が悪くなるので…。」
「私のことで?」
「はい…。」
「月人君らしくないね。それはあれかな、誰かに恋をしたとか。それが私の近くにいる人物。強いては幼馴染みで同じ学校、同じクラス、家も近い…。」
「月読様…?」
「ハルのことだな。」
「えっ…?」
「誰でも分かる。」
「私はそういう気持ちじゃないのに…。」
「私はそうは思わないが。」
「どういうことですか?」
「…」
「月読様、答えてください…。」
「ハルの気持ちが分からない内に、答えを出すことは出来ないよ。」
「私の気持ち?」
「今一度、自分のことを深く見つめてごらん?早急に答えを出そうとだけはしないで。」
「月読様にも、私の心は分からないのですか?」
「ただ何かに対して心が揺れている、とだけしか伝わってこない。」
「分かりました。時間は掛かりますが、それでも宜しいのなら、私は思う存分考えに考えを重ねることにします。」
「ハルの気の済むまで考えたらいい。」
「はい。」
この時点で既に月読命と月人の板挟みにあってしまった私は、これからそれがエスカレートしていくのだと思うと、急に眩暈がしてきた…。