D.G-SS

□りにゃりー物語
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やがて鍛錬が一段落したらしい神田が木刀をおろすと、待ってましたとばかりに耳をぴんぴん立てるリナリーです。

踵を返して、開け放ってある縁側から家の中に入っていく彼の背中を、とててと追いかけます。

体の動きにあわせて靡く黒髪が大好き。

あれにじゃれつけたらとても楽しいことでしょう。

けれども普段は届かない辺りで揺れているので残念。

届くような位置にある時に限って、あんまり動かないときているので、ちょっとつまらなかったりします。

でもそれならそれで、『ざぜん』を組む神田のお膝で一緒にお昼寝するので構わないと言えば構わないのですが。

リナリーがお家の中程まで入って来ると、彼が戻ってきました。

手には自分の飲み物と、小さなお皿。

足元に寄り添って一緒にちょこちょこ縁側へと戻ります。

神田は風の吹きぬけるいつもの場所に腰を下ろすと、彼女の前へ持ってきたお皿を置きました。

その上には芳しい茶褐色のデコレーション。

リナリーの大好きなチョコレートケーキです。

「マリの買ってきたやつだけどな。腐らせるよかマシだろ」

視線は庭に向いたまま、自分のミネラルウォーターを開けつつ彼は呟きました。

その隣のリナリーと言えば、おめめウルウルしっぽぴんぴんでお皿を見つめています。

大、大、大好きなチョコレートケーキですが、いきなり飛びつくようなお行儀の悪い真似はしません。

うずうずしながらも、神田を見上げて小首を傾げ、確認するように小さく啼きます。

すると彼はちらりと横目でリナリーを見ました。その視線が『好きにしろ』と言っているのを理解して、彼女は大喜びでケーキに取り掛かります。

だから神田は大好きです。いつもいつも、リナリーにチョコレートケーキを譲ってくれるのですから。

外に出る機会が多い、家族思いのティエドールお父さんとマリお兄さんはよくお土産を買って帰ってきます。

けれど、甘いものが嫌いなユーくんは大抵、何を買ってきても喜ばず眉間に皺。

なので彼への分は必ずチョコレートケーキと、相場が決まっていたり。

それなら絶対に無駄にならないことを、ティエドール家に近しい人たちは皆知っているのでした。

しばらくは2人、涼しい縁側でそれぞれミネラルウォーターとチョコレートケーキ。

風がさわさわ、木々を揺らす葉擦れの音も心地よく。

やがて休憩を終えた神田が鍛錬に戻ろうと立ち上がりかけたのは、チョコケーキを堪能したリナリーがお膝に乗っかって来たのと、ちょうど同じタイミング。

「………おい」

彼が何か言いたげに口を開きますが、満腹、幸せいっぱいのリナリーには聞こえていません。

ちょうど良い位置に丸くなって。気持ちよさそうに目を細めてふくふくします。

しっぽはゆらゆら。お庭はさわさわ。

撫でて撫でて?というようにちょっと神田に甘えます。

「……………ちっ」

やがて彼の漏らした小さな音は、風に吹かれてお空へと。

ああ、なんて気持ちがいいのでしょう。

夜になって、コムイ兄さんへお帰りなさいをする時には、とても良い報告ができそうです。

リナリーは益々嬉しくなって、夢の中にまどろみました。



ねぇ、兄さん。今日はとっても素敵な日だったの。




Episode:1
End.
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