D.G-SS

□りにゃりー物語
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マンション内を一周したリナリーは、ぴょこんとジャンプして、敷地と外とを隔てる壁に乗っかり進みます。

その上をとてとて歩いて、いつものようにお隣を窺います。

お隣には広い、大きな造りの日本家屋が。

リナリーは勝手知ったるポジションからお隣のお庭の枝へと飛び移り、その樹を伝って地面へと着地。

すると、それまでお庭で繰り返されていた風を切るような音がぴたりと止みました。

広々としたお庭の中。

鍛錬用の木刀を手にして、長い黒髪を靡かせていた人物が振り返ります。

「…お前か」

ちらりとだけリナリーに視線をむけると、すぐに何事も無かったかのように素振りを再開する青年。

彼はお隣のティエドール家の養子の一人、神田です。

有名な画家であるティエドールさんには何人もの養子がいて、彼はその子達を愛情いっぱいに育てていました。

人を慈しみ、伸ばしてやるのが趣味なんじゃないかと思えるくらい熱心に。

そして、その期待に応えるかのように子供達もそれぞれいろいろな分野で活躍していました。

『あの人はヒトの本質とか才能とかを見抜くのがうまいんだよねぇ』

そんなふうにコムイ兄さんが言っていたのを、リナリーは聞いたことがあります。

その中で神田はといえば、身体能力全般においてとても優れていて、特に剣の腕が立ちました。

当人は興味なさそうですが、家の中には優勝カップや楯がごろごろ転がっていて。

けれどいつも現状に満足するようなことはなく、ひたすらに高みを目指しているのです。

リナリーはそんな彼の無心の鍛錬を見ているのが好きでした。

武道をしているせいか、気配に敏い神田はリナリーが敷地の境界を越えただけで分かるようで、その時はいったん手を止めて彼女を一瞥し、また修行に戻るというのが通例でした。

お庭の端にお座りして、彼の切っ先が鋭く空を薙ぐのを見つめます。

…それにしても。

今日は一段とお隣が静かです。

人の居る様子がまるでありません。

今日はティエドールのお父さんはいないのかしら?

確かこの前、帰ってきたばかりだったのにと、リナリーは首を傾げます。

風景画が好きなティエドールさんは、よく絵を描くために旅をします。

人気作曲家兼クラシック演奏家である長兄も元々家を空けがちですし、サッカーが得意な末っ子は海外留学とやらで今年の春に旅立ってしまったばかりです。

そうなるとお家に神田は1人きり。

あらまあとリナリーはしっぽを揺らします。

家族団欒のはずの日曜日なのに、どうやら神田も1人でお留守番のようです。

大変だわ、遊びに来て良かったとリナリーはふっくり微笑いました。

彼が寂しくないように、皆が帰ってくるまで傍に居てあげないと。

そんな決意も新たに、ニコニコしっぽを振りながら神田の姿を眺めます。



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