D.G B-SS
□人魚の声音
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それ自体は、ずっと繰り返されてきた事。
なのに何故だろうか。
…彼女の何かが変わったのか。
もしくは自分の何処かが違ってしまったのだろうか。
「…かんだ」
あのね、と囁き声が言う。
時によってそのトーンはいろいろだ。
甘えるようであったり心配するようだったり楽しげであったり。
耳に触れる吐息も、添う体温も、慣れたモノのはずなのに。
「……っ…」
思わず振り払いそうになって、身じろぎした先で視線が絡む。
至近距離にある見慣れた瞳は少し見開かれ、どこか苦しげな自分が映りこむ。
「…神田?」
「……………」
呼吸と舌打ちを飲み込んで、踵を返す。
大した用ではなかったのか、後ろから呼び止めるような言葉は無い。
足を速めて距離をとる。
心の何処かで広がる安堵に自覚は無かった。
人魚の声音
後ろを向いた青年は、少女の瞳に気付かないまま
まだ、突き落さないで
私だけの幼馴染みでいて頂戴?
END
→after words