長編SS
□first down
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ちょうど現在進行形で思考の中心にあった相手と出くわして、対応に困った。
あとで思えば一言『ごめん』と言ってすれ違えばいいだけだったのに、それすら出来ずただただ彼の顔を見上げる。
神田の方もそのまま廊下を行き過ぎることなく、こちらをまじまじと眺めながら眉根を寄せた。
「ーおい」
「え…?」
呼ばれて、けれど鈍い反応しか返せずにいると相手はますます顔をしかめ、続ける。
「お前、医務室じゃなかったのか」
「あ…もう、平気…」
脱力するかのように、ぽつりと呟くと彼はそっぽを向いて舌打ちをした。
デイシャの奴、大袈裟に騒ぎやがって等々の小さな悪態が聞こえてきて、思わず瞬く。
それは、つまり。
…心配…してくれたのだろうか。
そう、廊下を走ってくるくらいには。
「………………」
ふわっとした暖かいものがこみ上げてきたと同時に、急に自分の姿が気になった。