長編SS
□first down
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木立の間、見え隠れする後ろ姿を追う内に妙な違和感を覚え始める。
(…あれ?)
靡く黒髪も、手にした重そうな木刀も六幻でこそないけれど、確かに神田だと思うのに。
(神田ってあんなに大きかったっけ)
確かにこの頃彼の背は伸びてきて、ちょっぴり悔しい思いをしていたけれど。
それにしたって、遠目ながらもあんなにスラリとしていたかと考える。
おかしいなと思いつつ、でもあんなに似た人がいるはずもないと断言できる。そもそも長い黒
髪なんて片手で数えるくらいしかいないのだから。
とりあえず、首を傾げていてもしょうがないとリナリーは更に足を早めて相手に近づいた。
乱立する木々の中。
向こうは一所に場所を定めて腰を下ろしたらしかった。
その行動に、ああやっぱり神田だと思う。
彼はある程度体を動かすと、静かな所を見つけて籠もる気を払拭するように瞑想することがよ
くあったから。
おかげで縮まりやすくなった距離をひと息に駆ける。
邪魔しては悪いような気もするが、今回は勘弁して貰おう。
ようやく追いついて、座る彼の全身が視界に入る辺りで速度を緩めた。
ゆっくりと歩を踏んで彼が顔を上げてくれるのを待つ。
気配に聡い神田は、どんなに静かに近づいてもこっちが声をかける前に気がつくから。
…ああ、ほら。
額にかかる髪が揺れて、端正な面がこちらに向けられる。
―神田。
そう、笑って呼びかけようとした所で…息を飲んだ。
作中:リナリー12歳。神田14歳。