長編SS
□カイコの家
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幼い頃、よく二人で遊んだ公園を突っ切り、歩く事十数分。
その家は、どこか懐かしい佇まいを見せる閑静な住宅地の中程にあった。
自分たちの家からそれほど遠くはないのに、全く足を向けることのなかった辺りをリナリーは興味深げに瞳へ映していく。
やがて、ある門構えの前で神田が足を止めた。
「…ここ?」
「多分な」
応えて、彼はその表札の無い門に手を伸ばす。
かしゃんと音をたてて掛け金を上げて外し、中へと踏み入る。
彼の後ろにくっつくようにして続いたリナリーは、慎ましやかな庭に視線をやって声を上げた。
「神田! 池がある」
シャツを急に引っ張られた彼は億劫そうに後ろの幼なじみを振り返った。
リナリーの方と言えばそんな相手には気づかずにとにかくワクワクした顔で小さな池を窺い見る。
「鯉とか、いるのかな?」
「…いるように見えるのかよ」
平坦な声を返されてさすがの彼女も苦笑を浮かべる。
「いな…いかな」
その池は規模としては子供用のプールよりは大きい、と言った程度のもので、慎ましやかな庭の真ん中に些か窮屈そうに収まっている。
周りの雑草に埋もれて黙然としている様は積極的な生命をあまり感じさせはしなかった。
「おら、行くぞ」
掴まれていることにしびれを切らした神田がリナリーを促し、玄関の前に立つ。
預かっていた鍵を差し込み回すと、扉は軋みひとつなく開いて2人を迎え入れた。